「就職はゴールではなく、スタートだ」——この言葉は、障がいのある方の就労において特に重要な意味を持ちます。障害者雇用促進法の改正により法定雇用率が引き上げられ、企業側の採用意欲は高まっています。しかし、採用された後に「働き続ける」こと、つまり職場に定着することに難しさを感じる方が少なくないのが現状です。
この記事では、浜松市で障がいのある方の就労をサポートする「就労移行支援事業所」の知見を基に、職場定着率を高め、自分らしく働き続けるための具体的な秘訣とコツを徹底解説します。就職活動中の方も、すでに働いている方も、ぜひ参考にしてください。
なぜ「職場定着」が難しいのか?離職の背景にある課題
長く働き続けるためには、まず「なぜ離職に至ってしまうのか」その背景を理解することが第一歩です。全国的なデータや、働き方の選択肢が定着率に与える影響を見ていきましょう。
全国的な傾向:障害種別ごとの定着率データ
障がいのある方の離職率は、残念ながら低いとは言えない状況にあります。特に精神障がいのある方の場合、1年後の定着率が5割を下回るというデータもあります。一方で、障害者求人を通じて就職した場合、定着率は比較的安定する傾向が見られます。
障がいの特性によって定着のしやすさには差があります。しかし、どの種別においても、適切なサポートがあれば定着率は向上する可能性を秘めています。
「オープン就労」と「クローズ就労」の大きな違い
働き方には、自身の障がいを企業に開示して働く「オープン就労」と、開示せずに働く「クローズ就労」の2種類があります。この選択が、職場定着に大きく影響します。
オープン就労は、障がいへの配慮やサポートを受けやすいという大きなメリットがあります。通院への理解、業務量の調整、コミュニケーション方法の工夫など、働きやすい環境を企業と共に作っていくことが可能です。一方、クローズ就労は求人の選択肢が広がる可能性があるものの、必要な配慮を得られず、一人で困難を抱え込みがちになります。
実際に、障がいを非開示で一般求人に応募した場合の1年後の定着率は30.8%と非常に低い数値であるのに対し、オープン就労では支援機関のサポートも相まって定着率が大幅に向上します。 安心して長く働くためには、自分の状況を理解してもらい、必要なサポートを受けられるオープン就労が有効な選択肢と言えるでしょう。
職場でのミスマッチ:人間関係と業務内容の壁
離職の直接的な原因として多いのが、職場でのミスマッチです。主な理由として以下の2点が挙げられます。
- 人間関係の悩み:「障がいへの理解が得られない」「コミュニケーションがうまくいかない」「孤立感を感じる」といった問題は、精神的な負担を増大させます。
- 業務内容の不一致:「能力や特性に合わない仕事を任される」「業務の指示が曖昧で分かりにくい」「評価制度が不明確」といった状況は、仕事へのモチベーション低下や自信喪失につながります。
これらのミスマッチは、就職前の準備不足や、企業側の受け入れ体制の不備から生じることが少なくありません。次の章では、こうしたミスマッチを防ぐための「準備」について解説します。
成功の鍵は「準備」にあり!就職前にできること
職場定着は、就職活動を始める前の「準備段階」から始まっています。自分を深く理解し、専門的なサポートをうまく活用することが、成功への近道です。
自己理解を深める:自分の強みと必要な配慮を知る
まず最も重要なのは、「自分自身を理解すること」です。以下の点について整理してみましょう。
- 得意なこと・苦手なこと:どのような作業なら集中できるか、逆にどんな環境や業務がストレスになるか。
- 強み・スキル:これまでの経験で培ったスキルや、自分の特性からくる強みは何か。
- 必要な配慮:どのようなサポートがあれば、能力を最大限に発揮できるか。(例:指示は口頭でなく文書で、静かな環境で作業したい、定期的な休憩が必要など)
これらを明確にすることで、自分に合った職場を探す軸ができ、面接時にも企業へ的確に自分のことを伝えられるようになります。
浜松市の就労移行支援事業所の活用法
自己理解を一人で進めるのは簡単ではありません。そこで頼りになるのが、浜松市内にも多数存在する「就労移行支援事業所」です。これらの事業所は、障がいのある方の就職を専門的にサポートする福祉サービス機関です。
事業所では、個別カウンセリングを通じて自己理解を深めるだけでなく、就職に必要なスキルを身につけるための多様なプログラムが提供されています。
- PCスキル:WordやExcelの基礎から、Webデザインやプログラミングといった専門スキルまで学べる事業所もあります。
- コミュニケーション訓練:SST(社会生活技能訓練)などを通じて、職場での円滑な人間関係を築く練習をします。
- ビジネスマナー:挨拶や報告・連絡・相談など、社会人としての基本を学びます。
- ストレスコントロール:自分のストレスサインに気づき、対処する方法を身につけます。
浜松市内には、浜松駅周辺のアクセスしやすい場所や、発達障がい・精神障がいなど特定のニーズに強みを持つ事業所など、様々な選択肢があります。
企業実習(インターンシップ)でミスマッチを防ぐ
就労移行支援のプログラムの中でも特に重要なのが「企業実習」です。実際に興味のある企業で一定期間働くことで、求人票だけでは分からない職場の雰囲気や、実際の業務内容を肌で感じることができます。
職場実習を体験することで、利用者は業務へのイメージを具体化し、自身の適性を判断できます。これは採用後のミスマッチを回避する上で非常に効果的です。
企業側にとっても、応募者の人柄や仕事ぶりを理解する良い機会となり、双方にとって納得感の高い採用につながります。就労移行支援事業所は、こうした実習先の開拓や調整もサポートしてくれます。
「働き続ける」ための5つの実践的コツ
入念な準備を経て無事に就職した後、いよいよ「働き続ける」フェーズが始まります。ここでは、職場で実践できる5つの具体的なコツを紹介します。
コミュニケーションの工夫:相談できる関係を築く
職場で孤立しないためには、「相談できる相手」を見つけることが何よりも大切です。直属の上司や、人事担当者、あるいは話しやすい同僚でも構いません。ポイントは、問題を一人で抱え込まないことです。
- 定期的な面談の機会を活用する:多くの企業では、定期的な面談が設定されています。業務の進捗だけでなく、困っていることや体調の変化などを率直に伝える場として活用しましょう。
- 「報・連・相」を丁寧に:業務の進捗や状況をこまめに報告・連絡・相談することは、信頼関係の基本です。曖昧な表現を避け、具体的に伝えることを心がけましょう。
- 感謝を伝える:配慮してもらったり、手伝ってもらったりした際には、きちんと感謝の気持ちを言葉で伝えることが、良好な人間関係につながります。
業務の進め方:タスク管理と体調コントロール
安定して働き続けるには、セルフマネジメントが欠かせません。特に、業務の進め方と体調管理は重要です。
- タスクの見える化:任された仕事はメモやツールを使ってリスト化し、優先順位をつけて進めましょう。完了したタスクにチェックを入れることで、達成感も得られます。
- 完璧を目指さない:最初から100%を目指す必要はありません。まずは60~70%の完成度で上司に確認を求めるなど、こまめにフィードバックをもらいながら進めるのがコツです。
- 体調の波を理解する:自分の体調や気分の波を把握し、「今日は無理をしない」「調子の良い時に集中して進める」など、ペース配分を意識しましょう。調子が悪い時に休みやすい職場環境かどうかも、定着の重要な要素です。
企業の「合理的配慮」を上手に活用する
障害者差別解消法により、企業には障がいのある従業員に対して「合理的配慮」を提供することが義務付けられています。これは、障がいが理由で業務に支障が出ている状況を改善するための措置です。
ただし、配慮は企業側が一方的に提供するものではなく、本人からの申し出が起点となります。就職前に整理した「自分に必要な配慮」を基に、企業に相談してみましょう。
合理的配慮の例:
- 通勤ラッシュを避けるための時差出勤
- 聴覚過敏のためのノイズキャンセリングヘッドホンの使用許可
- 業務指示を口頭ではなく、チャットやメールで行う
- 定期的な通院のための休暇取得への配慮
企業に「過重な負担」とならない範囲での配慮が求められるため、すべてが実現するとは限りませんが、話し合うことで解決策が見つかるケースは多くあります。
継続的なサポート体制を構築する:就労定着支援とは
就職後もサポートは終わりません。就労移行支援などを利用して就職した場合、就職後も継続的な支援を受けることができます。特に重要なのが「就労定着支援」という福祉サービスです。
就労定着支援は、就職後6ヶ月を経過した方を対象に、最長3年間、職場での悩みや生活上の課題について相談に乗り、企業との橋渡し役となってくれるサービスです。
支援員が定期的に職場を訪問したり、本人と面談したりすることで、問題が大きくなる前に早期発見・早期対応が可能になります。浜松市でも、令和8年度までに就労定着支援事業の利用者数を67人(令和3年度実績の1.42倍)に増やす目標を掲げており、その利用を推進しています。
浜松市の独自支援策を知る
浜松市では、国の制度に加えて、独自の就労支援策も展開しています。例えば「浜松市重度障害者等就労支援特別事業」は、重度の障がいがある方の通勤や職場での介助などを支援する制度で、雇用と福祉の連携によって働き続けるための基盤を支えています。
こうした地域の制度を知っておくことも、いざという時に役立ちます。詳細は市の障害福祉課や相談支援事業所に問い合わせてみましょう。
企業側の視点:障がい者雇用を成功させるために
働きやすさは、本人の努力だけで実現するものではありません。企業側の理解と体制づくりが不可欠です。ここでは、企業がどのような取り組みをしているかを知ることで、職場選びの参考にしましょう。
受け入れ体制の構築:業務の切り出しと社内理解
障がい者雇用に成功している企業は、採用前に周到な準備をしています。
- 業務の切り出し:既存の業務を細かく分析し、「誰がやっても同じ成果を出せる定型的な作業」や「専門知識がなくてもマニュアルがあれば対応できる作業」などを切り出して、障がいのある方が担当する業務を創出します。 これにより、本人は安心して業務に集中でき、企業全体の生産性向上にもつながります。
- 社内理解の促進:採用する本人と相談の上、配属先の部署のメンバーに障がいの特性や必要な配慮について事前に説明会を開くなど、現場の社員がスムーズに受け入れられるような環境を整えます。
面接などの際に、こうした「業務の切り出し」や「社内への周知」について企業がどのように考えているか質問してみるのも、その企業の姿勢を知る良い方法です。
支援機関との連携の重要性
「採用したら終わり」ではなく、就労移行支援事業所や地域の支援機関と継続的に連携することも、定着率向上の鍵です。
企業、本人、支援機関の三者が定期的に情報を共有し、それぞれの役割を果たすことで、安定した就労が実現します。例えば、本人からは直接言いにくい要望を支援機関を通じて企業に伝えてもらったり、企業側が対応に困った際に支援機関から専門的なアドバイスを受けたりすることができます。浜松市も、ハローワークと連携し、企業への助言やサポート事業の案内を行っています。
浜松市で相談できる就労移行支援事業所
ここまで解説してきたように、職場定着の成功には就労移行支援事業所のサポートが非常に有効です。浜松市内にも、特色ある事業所が数多く存在します。ここではいくつかの例をご紹介します。
- LITALICOワークス 浜松 / 浜松市役所前
全国展開の大手で、豊富な支援実績とノウハウが強み。一人ひとりの「自分らしく働く」を一緒に考え、丁寧なサポートを提供しています。 - アクセスジョブ 浜松駅前
浜松駅から徒歩3分とアクセス抜群。約500種類のプログラムから個別にカリキュラムを組む「完全個別支援」が特徴で、就職率・定着率ともに90%以上という高い実績を誇ります。 - ウェルビー 浜松駅前センター
発達障がいや精神障がいのある方への支援に強みを持ち、独自のカリキュラムで自己理解を深めながらスキルアップを目指せます。 - ランプ浜松
プログラミングやWebデザインなど、ITスキルに特化した訓練が受けられます。専門職を目指したい方におすすめです。
これらの事業所では、見学や体験利用も随時受け付けています。まずは気軽に問い合わせて、自分に合った場所を探してみてはいかがでしょうか。
まとめ:自分らしい働き方を見つけるために
障がいのある方が長く働き続けるためには、「就職前の準備」「就職後の工夫」「継続的なサポート」という3つの要素が不可欠です。この記事で紹介したポイントを振り返ってみましょう。
- 自己理解を徹底する:自分の強み、苦手、必要な配慮を明確にすることが全ての土台。
- 就労移行支援を最大限活用する:専門家の力を借りて、スキルアップとミスマッチ防止を図る。浜松市には頼れる事業所が多数あります。
- オープン就労を検討する:必要な配慮を受けながら安心して働くための有効な選択肢。
- 相談できる関係を築く:職場や支援機関に相談相手を見つけ、一人で抱え込まない。
- 企業側の取り組みを知る:受け入れ体制が整っている企業を選ぶことも重要。
就職は、人生の大きな一歩です。しかし、その一歩を確かなものにし、未来へとつなげていくためには、焦らず、自分に合ったペースで、適切なサポートを受けながら進むことが大切です。浜松市には、あなたの「働きたい」「働き続けたい」という想いを応援する多くのリソースがあります。まずは一歩、相談から始めてみませんか。
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