重い障害があっても「働きたい」を諦めないために
「障害が重いから、一般企業で働くのは難しいかもしれない…」
「通勤や職場での介助が必要だけど、誰に頼ればいいんだろう?」
そんな不安を抱え、働く意欲がありながらも一歩を踏み出せずにいる方はいませんか?浜松市には、そうした方々の「働きたい」という想いを力強く後押しする制度があります。それが「浜松市重度障害者等就労支援特別事業」です。
この事業は、これまで障害福祉サービスの対象外とされてきた「通勤」や「仕事中の介助」といった経済活動の場面で、必要な支援を提供することを目的としています。この記事では、この画期的な制度について、対象者や支援内容、利用方法などを分かりやすく解説します。さらに、ご自身の状況に合わせて最適な就労支援サービスを見つけるためのヒントとして、「就労移行支援」との違いについても触れていきます。
浜松市「重度障害者等就労支援特別事業」の全体像
制度の目的:「雇用」と「福祉」の連携が生む新たな可能性
この事業の最大の目的は、重度の障害がある方々の就労機会を拡大し、社会参加を促進することです。従来、障害福祉サービスは日常生活の支援が中心で、「通勤」や「業務の遂行」といった経済活動に関わる支援は対象外とされてきました。一方で、企業向けの雇用支援策だけでは、喀痰吸引や食事介助といった専門的な福祉的サポートをカバーしきれないという課題がありました。
この事業は、重度障害者等に対し、通勤支援や職場等における支援を実施することにより、重度障害者等の就労機会の拡大を図ることを目的として実施します。
「重度障害者等就労支援特別事業」は、この「雇用施策」と「福祉施策」の隙間を埋めるために創設されました。国の助成金と市の福祉サービスを組み合わせることで、通勤から職場での業務補助、身体的な介助まで、一人ひとりのニーズに応じた切れ目のない支援を実現します。
国の制度との関連性
この事業は、厚生労働省が推進する「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」に基づき、浜松市が実施主体となって運営しています。費用は国、静岡県、浜松市がそれぞれ負担し、地域全体で重度障害者の就労を支える仕組みです。令和6年度には、静岡県内で浜松市、静岡市、伊豆市の3市がこの事業を実施しています。
誰が利用できるの?具体的な対象者と要件
この事業を利用するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 浜松市に居住している方
住民票が浜松市にあることが必要です。就労場所は浜松市内に限定されません。 - 特定の障害福祉サービスを利用している方
「重度訪問介護」「同行援護」「行動援護」のいずれかの支給決定を受けている方が対象です。 - 就労している、または自営業を営んでいる方
民間企業に雇用されている方、または個人事業主や法人の代表者などが対象です。ただし、就労継続支援A型事業所の利用者は対象外となります。 - 一定時間以上就労している方
1週間の所定労働時間が10時間以上であること。または、申請年度の末までに10時間以上を目指すことが「支援計画書」で確認できる場合も対象となります。
これらの要件から、この事業は「これから就職活動をする」段階ではなく、「すでに就労先が決まっている、または自営業を営んでいる」方が、安定して働き続けるための支援であることがわかります。
どんな支援が受けられる?サービス内容を徹底解説
提供される支援は、大きく「通勤支援」と「職場支援」の2つに分けられます。支援内容は、利用者、企業、支援機関などが共同で作成する「支援計画書」に基づいて決定されます。
通勤支援:毎日の「通う」をサポート
自宅から職場までの移動に必要な介助が提供されます。公共交通機関の利用や、場合によっては福祉車両での送迎など、個々の状況に応じた支援が可能です。
職場支援:業務遂行から身体介助まで
職場での支援は、業務そのものに関わるサポートと、身体的なケアなど福祉的なサポートに分けられます。
- 業務介助の例
- パソコンの操作や入力作業の補助
- 書類の朗読、代筆、整理
- 業務上の外出への付き添い
- 業務外の福祉的支援の例
- 喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケア
- 食事や排泄の介助
- 姿勢の調整(体位変換)
- 安全確保のための見守り
特に、喀痰吸引などの福祉的支援は、国の雇用助成金では対象外となる部分であり、この事業の大きな特徴と言えます。
【重要】雇用形態による支援の違い
支援の仕組みは、民間企業に雇用されているか、自営業者かで異なります。これは、国の雇用助成金(JEED助成金)との連携方法が違うためです。
民間企業に雇用されている方
まず、雇用主である企業が国の助成金(JEED:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施)を活用します。それでもカバーしきれない支援を、浜松市の事業が補う形となります。
自営業者の方
自営業者はJEEDの助成金対象外のため、通勤支援も職場支援も、初めから浜松市の事業単独で支援を受けることができます。
利用するにはどうすればいい?申請からサービス開始までの流れ
制度の利用は、相談から始まり、いくつかのステップを経てサービス開始に至ります。
ステップ1:まずは相談から
最初にお住まいの区の区役所内にある福祉事業所社会福祉課、または行政センターの担当窓口に相談しましょう。制度の詳しい説明や、今後の手続きについて案内してもらえます。
ステップ2:「支援計画書」の作成
この事業を利用する上で最も重要なのが「支援計画書」の作成です。これは、どのような支援が、いつ、どのくらい必要かを具体的に記した計画書です。利用者本人、雇用主である企業(または自営業の場合は本人)、サービスを提供する事業者、そして必要に応じて相談支援専門員などが連携して作成します。
ポイント:計画書の作成が難しい場合は、指定特定相談支援事業者に作成の支援を依頼することができます。地域の相談支援センターなどが対応してくれます。
民間企業に雇用されている場合は、作成した支援計画書をまずJEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)の都道府県支部に提出し、内容の確認を受ける必要があります。
ステップ3:浜松市への申請と決定
JEEDの確認が済んだ支援計画書と、所定の申請書、その他必要書類(雇用契約書の写しなど)を揃えて、お住まいの区の担当窓口に提出します。市は提出された書類を審査し、支給の要否や支給量を決定し、通知します。決定後、サービス提供事業者と契約を結び、いよいよ支援が開始されます。
費用はどのくらい?利用者負担の仕組み
サービスの利用にかかった費用の原則1割が利用者負担となります。ただし、家計への負担が重くなりすぎないよう、世帯の所得に応じて負担上限月額が定められています。
対象世帯 | 利用者負担上限月額 |
---|---|
生活保護受給世帯・市民税非課税世帯 | 0円 |
市民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300円 |
市民税課税世帯(上記以外) | 37,200円 |
この上限額は、普段利用している重度訪問介護などの障害福祉サービスとは別に設定されます。つまり、両方のサービスを利用した場合、それぞれのサービスで上限額までの負担が発生する可能性があります。
「就労移行支援」との違いと、あなたに合ったサービスの選び方
ここまで「重度障害者等就労支援特別事業」について解説してきましたが、この制度はあくまで「就労後の定着」を支えるものです。では、「これから就職したい」と考えている方は、どのようなサービスを利用すればよいのでしょうか。そこで重要になるのが「就労移行支援」です。
就労系福祉サービスの役割分担
障害者総合支援法に基づく就労系の福祉サービスには、目的や対象に応じていくつかの種類があります。それぞれの違いを理解し、自分の段階に合ったサービスを選ぶことが大切です。
サービス種別 | 目的 | 対象者 | 雇用契約 | 賃金・工賃 | 利用期間 |
---|---|---|---|---|---|
就労移行支援 | 一般企業への就職準備・訓練 | 一般就労を希望する方 | なし | 原則なし | 原則2年 |
就労継続支援A型 | 支援を受けながら働く場の提供 | 雇用契約に基づく就労が可能な方 | あり | 給与(最低賃金以上) | 定めなし |
就労継続支援B型 | 体調に合わせ軽作業を行う場の提供 | 雇用契約に基づく就労が困難な方 | なし | 工賃 | 定めなし |
このように、「重度障害者等就労支援特別事業」が就職後のステージを支えるのに対し、「就労移行支援」は就職前の準備段階をサポートするサービスです。
就職を目指す第一歩は「就労移行支援」から
もしあなたが今、「働きたいけれど、何から始めたらいいかわからない」「自分に合う仕事を見つけたい」「就職に必要なスキルを身につけたい」と考えているなら、まずは就労移行支援事業所に相談することをおすすめします。
就労移行支援事業所では、専門のスタッフが一人ひとりの希望や特性に合わせて、以下のようなサポートを提供します。
- 自己分析や職業適性の評価
- ビジネスマナーやPCスキルなどの職業訓練
- 企業での実習(インターンシップ)の機会提供
- 履歴書の添削や面接練習などの就職活動支援
- 就職後の職場定着支援
「重度障害者等就労支援特別事業」という強力なバックアップがあることを知った今だからこそ、安心して就職活動の準備を始められるはずです。就労移行支援でしっかりと土台を築き、自分らしい働き方を見つけましょう。
浜松市であなたに合った就労移行支援事業所を探しませんか?
自分らしい働き方を見つける第一歩は、信頼できるパートナー探しから。当サイトでは、浜松市内の就労移行支援事業所の情報を掲載しています。ぜひ、あなたにぴったりの事業所を見つけて、相談してみてください。
まとめ:未来の働き方をデザインする、はじめの一歩
浜松市の「重度障害者等就労支援特別事業」は、重い障害があっても意欲的に働くことを可能にする、非常に心強い制度です。通勤や職場での介助という具体的な課題を解決し、安定した就労を継続するための道筋を示してくれます。
この記事を読んで、働くことへの希望が湧いてきた方も多いのではないでしょうか。その希望を現実にするためのステップは、あなたの状況によって異なります。
- すでに就労先が決まっている方は、本記事を参考に「重度障害者等就労支援特別事業」の利用を検討してみてください。
- これから就職を目指す方は、まずは「就労移行支援」の扉を叩いてみましょう。
どんな道を選ぶにせよ、一人で悩む必要はありません。浜松市には、あなたの「働きたい」を支える多くの専門機関や支援者がいます。最初の一歩を踏み出し、あなたらしいキャリアを築いていきましょう。
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