お子さんの「働きたい」を支える、家族の不安と希望
お子さんの将来を想うとき、ご家族の心には、希望とともに尽きることのない不安がよぎるのではないでしょうか。「この子に合った仕事は、本当に見つかるのだろうか」「いつか私たちがそばにいなくなった後、一人でちゃんと生活していけるだろうか」「社会に出て、傷つくことはないだろうか」。特に、障害のあるお子さんを持つご家族にとって、その悩みは深く、複雑です。
インターネットで情報を探せば、「就労移行支援」「障害者雇用」といった言葉はすぐに見つかります。しかし、情報が多ければ多いほど、「結局、何から手をつければいいの?」「どの情報がうちの子にとって本当に役立つの?」「誰に相談すれば、この漠然とした不安を解消できるの?」という新たな迷いの森に迷い込んでしまうことも少なくありません。内閣府の調査によれば、障害のある方の家族の約7割が「介護・支援」に関する悩みを抱えていると報告されており、その中には情報収集の困難さや将来への不安が色濃く反映されています。
この記事は、まさにそのような悩みを抱える浜松市のご家族のために書かれました。これは単なる制度の解説書ではありません。お子さんの「働きたい」という気持ちを、家族としてどう支え、どうすれば最適な道筋を見つけられるのか。そのための、信頼できる「道しるべ」となることを目指しています。この記事を最後までお読みいただければ、漠然としていた不安が具体的な行動計画に変わり、お子さんとご家族にとって最良の選択をするための「知識」と「実践的なステップ」が手に入ります。さあ、一緒に、未来への第一歩を踏み出しましょう。
そもそも「就労移行支援」とは?家族が知っておくべき基本
本格的な事業所選びに入る前に、まずは「就労移行支援」という制度の基本を、ご家族の視点から確認しておきましょう。ここでは専門用語をできるだけ避け、ポイントを絞って分かりやすく解説します。
就労移行支援の概要
就労移行支援とは、一言でいえば「一般企業への就職を目指すための、国が定めた公式なトレーニング・サポート制度」です。これは「障害者総合支援法」という法律に基づいており、障害のある方が社会で自立した生活を送ることを目的としています。学校のように「通いながら」、就職に必要な準備をトータルで支援してくれる場所とイメージすると分かりやすいでしょう。
- 目的:一般企業で働くことを目標に、必要な知識やスキルを身につけ、就職活動を行い、就職後も安定して働き続けられるように支援すること。
- 対象者:一般企業への就職を希望する、原則18歳以上65歳未満の障害や難病のある方です。重要な点として、障害者手帳を持っていなくても、医師の診断書や意見書があれば利用できる場合があります。「手帳がないから…」と諦める前に、まずは相談してみることが大切です。
- サービス内容:事業所によって特色はありますが、主に以下の4つの柱で構成されています。
- 職業訓練:パソコンスキル(Word, Excel)、ビジネスマナー、電話応対、軽作業など、仕事に直結する実践的な訓練を行います。
- 自己理解の促進:専門のスタッフとの面談を通じて、自分の得意なこと・苦手なこと、ストレスへの対処法などを客観的に把握し、自分に合った働き方を見つけます。
- 就職活動サポート:ハローワーク等と連携し、求人情報の探し方から、履歴書・職務経歴書の添削、模擬面接まで、就職活動のあらゆる段階をサポートします。ただし、事業所が直接職業紹介をすることはできません。
- 職場定着支援:就職はゴールではありません。就職後も最長3年半、本人と企業の間に立って、仕事上の悩みや課題を解決し、長く安定して働き続けられるようサポートします。
- 利用期間と費用:
- 期間:原則として最長2年間です。この期間内で、自分のペースに合わせて就職準備を進めます。
- 費用:国や自治体からの補助があるため、多くの方が無料で利用しています。前年度の世帯所得に応じて自己負担上限額が定められていますが、約9割の方が自己負担なし(0円)で利用しているというデータもあります。詳しい費用については、お住まいの市区町村の障害福祉課で確認できます。
家族のための基本ポイント
就労移行支援は、単に「仕事を見つける場所」ではありません。お子さんが社会人として自立していくための「土台作り」をする場所です。生活リズムを整え、コミュニケーション能力を養い、働く自信をつける。ご家族にとっても、専門家と一緒に子どもの成長を見守り、将来への不安を具体的な希望に変えていくための、心強いパートナーとなり得るのです。
【核心①】家族が抱える悩みと、就労移行支援が応えられること
制度の概要を理解した上で、次に考えたいのは「この制度が、私たち家族の悩みにどう応えてくれるのか?」という点です。ここでは、ご家族が抱える切実な課題に深く寄り添い、就労移行支援がもたらす具体的なメリットを解き明かしていきます。
家族が直面する具体的な課題
障害のあるお子さんを育てるご家族は、日々、様々な壁に直面しています。それは決して他人事ではなく、多くのご家庭が共有する、深く、そして重い課題です。
「親なきあと」への根源的な不安
ご家族が最も心を痛める問題の一つが、「親なきあと問題」です。親が年を重ね、病気になったり、万が一いなくなってしまったりした時、「この子はどうやって生きていくのだろうか」。住む場所、お金の管理、日々の生活、困ったときの相談相手。考えるべきことは山積みで、その重圧は計り知れません。この不安の根底には、お子さんの「経済的な自立」と「社会的な孤立」への懸念があります。
終わりの見えない経済的な負担
障害のあるお子さんのケアには、医療費や療育費など、継続的な費用がかかります。また、ご家族の誰かが介護に専念することで、就労機会が制限され、世帯収入が減少してしまうケースも少なくありません。障害児・疾患児を育てる家庭の約6割が経済的なゆとりがないと回答した調査結果もあり、将来への経済的な不安は、常に家族の肩に重くのしかかっています。
精神的な孤立と日々のストレス
「この辛さは、誰にも分かってもらえない」。周囲の理解不足や、時には心ない偏見に傷つき、社会から孤立しているように感じてしまうご家族は少なくありません。日々のケアによる身体的な疲労に加え、将来への不安、終わりのない心配事からくる精神的なストレスは、家族の心身を蝕んでいきます。悩みを打ち明ける場所がなく、家族だけで抱え込んでしまうことで、その負担はさらに増大します。
複雑な制度と情報収集の困難さ
お子さんのために何かしたいと思っても、「どこに相談すればいいのか」「どの制度が使えるのか」が分からず、途方に暮れてしまうことがあります。行政の窓口、医療機関、教育機関、福祉サービス事業所…相談先は多岐にわたり、それぞれで手続きも異なります。膨大な情報の中から、自分たちに必要な情報を探し出し、理解し、行動に移すことは、精神的にも時間的にも大きな負担となります。
就労移行支援が家族にもたらすメリット
これらの深刻な悩みに対し、就労移行支援は、お子さん本人だけでなく、ご家族にとっても大きな支えとなり得ます。それは、単なる「就職支援」を超えた、家族全体の未来を明るく照らす可能性を秘めているのです。
本人の「生きる力」を育み、「親なきあと」の不安を軽減する
就労移行支援の最大の目的は、本人が安定して働き、経済的に自立することです。事業所に通い、職業スキルやコミュニケーション能力を身につけることで、本人は「働く自信」と「社会の一員である」という自己肯定感を得ます。これは、ご家族が抱える「親なきあと」の経済的な不安を直接的に和らげるだけでなく、お子さん自身が「自分の力で生きていく」ための土台を築くことに繋がります。就労は、生活リズムの安定や社会性の向上にも寄与し、精神的な自立をも促します。
「チーム」で支える体制が、家族の精神的孤立を解消する
就労移行支援は、家族だけで問題を抱え込む構造を根本から変えます。これまで家庭内で閉じていた悩みを、支援員、カウンセラー、ジョブコーチといった「専門家チーム」と共有できるようになるのです。彼らは、お子さんの特性を客観的に評価し、最適な支援計画を立ててくれるだけでなく、ご家族からの相談にも応じてくれます。「家ではどう接すればいいか」「本人のやる気を引き出すにはどうすれば?」といった日々の関わり方について、具体的なアドバイスをもらえることは、ご家族にとって大きな心の支えとなるでしょう。もう、一人で悩む必要はないのです。
社会との「つながり」が、本人と家族の世界を広げる
お子さんが事業所に通い始めると、家庭と学校(あるいは病院)だけだった世界が、ぐっと広がります。支援員や他の利用者さんとの関わりの中で、社会のルールを学び、コミュニケーションの経験を積むことができます。同じ目標を持つ仲間と励まし合う経験は、本人の成長を大きく促します。そして、お子さんが社会とのつながりを持つことは、ご家族にとっても、社会との新たな接点が生まれることを意味します。他のご家族との情報交換や交流の機会が生まれ、精神的な孤立感の解消にも繋がります。
客観的な視点が、お子さんの「新たな可能性」を発見する
長年一緒に暮らしていると、どうしても「うちの子はこういう子だから」という固定観念が生まれてしまいがちです。しかし、支援員という「家族以外の第三者」が専門的な視点で関わることで、ご家族も気づかなかったお子さんの強みや意外な才能、可能性が発見されることがよくあります。「こんな作業が得意だったんだ」「人前で話すのは苦手だと思っていたけど、準備すればしっかり発表できるんだ」。そうした新たな発見は、お子さんの自信になるだけでなく、ご家族にとっても大きな喜びとなり、将来への希望をより確かなものにしてくれます。
【核心②】浜松市の就労移行支援のリアル|どんな事業所があるの?
就労移行支援が家族にとっても心強い味方であることが分かったところで、次は舞台を「浜松市」に移し、より具体的な情報を見ていきましょう。あなたの街には、どのような選択肢があるのでしょうか。
浜松市の事業所の全体像
政令指定都市である浜松市は、障害福祉サービスが充実しており、就労移行支援事業所も数多く存在します。例えば、大手ポータルサイト「LITALICO仕事ナビ」で検索すると、浜松市内だけで100件以上の就労支援事業所がヒットし、そのうち就労移行支援を提供している事業所も多数見つかります。
この「選択肢の多さ」は、お子さんの特性や希望に合った事業所を見つけやすいという大きなメリットである一方、どこを選べば良いのか迷ってしまう原因にもなります。だからこそ、事業所の「タイプ」を理解し、それぞれの特徴を知ることが重要になるのです。浜松市では、令和8年度までに就労移行支援等を通じて一般就労へ移行する人の目標値を設定するなど、市としても就労支援に力を入れています。
浜松市の事業所の主なタイプと具体例
浜松市内の事業所は、大きく4つのタイプに分類できます。それぞれの特徴と、市内で活動する代表的な事業所の例を見ていきましょう。(※ここに挙げるのはあくまで一例です。全ての事業所を網羅するものではありません。)
1. 大手・実績豊富型
全国に事業所を展開する大手法人です。長年の運営で培われた豊富なプログラム、多くの就職実績、確立された支援ノウハウが強みです。企業とのネットワークも広く、安定したサポート体制を求めるご家族におすすめです。
- LITALICOワークス:業界最大手の一つで、浜松市内にも「浜松」「浜松市役所前」「新浜松」など複数の事業所を展開しています。累計17,000人以上の就職実績を誇り、就職後も最長3年半の定着支援で「幸せに働き続ける」ことをサポートします。一人ひとりに合わせた個別支援計画と、4,500社以上の実習先ネットワークが魅力です。
2. IT・専門スキル特化型
近年需要が高まるIT分野に特化した事業所です。プログラミング、Webデザイン、動画編集といった専門スキルを学び、専門職としての就職を目指せます。特定の分野に強い興味を持つお子さんや、在宅ワークを視野に入れている方におすすめです。
- ランプ浜松:プログラミングやWebデザインなど、ITスキルに特化した訓練を提供。IT企業への就職率44%、就職後6ヶ月の定着率96%という高い実績を誇ります(2023年度ITスクール全体)。JR浜松駅から徒歩約3分とアクセスも良好です。
- ミライマーリン:ITに特化した個別指導が特徴で、Officeソフトからプログラミング、Webデザインまで幅広く学べます。通所が困難な方向けに在宅でのオンライン学習にも対応しており、フリーランスとしての活躍も視野に入れた支援を行っています。
3. 地域密着・多機能型
浜松地域に根ざし、地元の企業との強い連携を持つ事業所です。就労移行支援だけでなく、就労継続支援(A型・B型)や生活介護など、複数のサービスを同じ法人内で提供している「多機能型」が多いのも特徴。本人の状況に合わせて、柔軟な支援を受けやすいメリットがあります。
- 聖隷福祉事業団:浜松を拠点とする歴史ある社会福祉法人。「聖隷チャレンジ工房」として市内各所(和合、浜北、都田など)に事業所を展開。働く場と住まいが一体となった施設もあり、仕事と生活の両面から手厚い支援を受けられるのが特徴です。
- 多機能事業所ループ:社会福祉法人みどりの樹が運営。浜名区に拠点を置き、就労移行支援と就労継続支援B型を提供しています。生活リズムを整えながら、一人ひとりのペースに合わせた支援を行います。
4. 個別支援・丁寧なサポート型
大規模ではありませんが、その分、一人ひとりの利用者とじっくり向き合い、オーダーメイドの個別支援計画を立てることを重視する事業所です。静かな環境で、自分のペースで着実にステップアップしたいお子さんにおすすめです。
- アクセスジョブ:浜松駅前と浜松田町に事業所があります。教育分野で50年以上の実績を持つ株式会社クラ・ゼミが運営。約500種類以上のプログラムから本人に合った訓練を選べるほか、栄養バランスの取れたランチが無料で提供されるなど、心身両面からのサポートが手厚いのが特徴です。就職率90%、半年以上の職場定着率90%という高い実績も誇ります。
知っておきたい!浜松市の公的相談窓口
「たくさんの種類があるのは分かったけど、やっぱりどこに相談したらいいか分からない…」。そんな時に頼りになるのが、浜松市の公的な相談窓口です。事業所選びに迷った時の「駆け込み寺」として、ぜひ覚えておいてください。
浜松市障害者就労支援センター「ふらっと」
浜松市から委託を受けて運営されている、仕事に関する総合相談窓口です。最大の特長は、障害者手帳がなくても、病気や障害によって働くことに困難を抱えている方なら誰でも無料で相談できる点です。専門の相談員が、本人の状況を丁寧にヒアリングし、どんな仕事が向いているか、どの事業所が合いそうかといったアドバイスをしてくれます。まさに、最初の一歩に最適な場所です。
- 所在地:浜松市中央区(詳細は公式サイトをご確認ください)
- 相談方法:電話での事前予約制
- 公式サイト:浜松市障害者就労支援センターふらっと
各区役所の障害福祉担当課
お住まいの区役所にある障害福祉担当の窓口は、福祉サービスを利用するための手続きを行う最初の場所です。就労移行支援の利用に必要な「障害福祉サービス受給者証」の申請もここで行います。また、地域の事業所一覧などの情報提供も行っており、公的な立場からアドバイスをもらえます。
- 中央福祉事業所、浜名福祉事業所、天竜福祉事業所など、各区に窓口があります。
【核心③・最重要】後悔しない!わが子に最適な事業所を見つけるための3ステップ・アクションプラン
ここからが、この記事の最も重要なパートです。数ある選択肢の中から、本当にお子さんに合った事業所を見つけ出すための、具体的で実践的な「3ステップ・アクションプラン」を提案します。このステップ通りに進めれば、情報に振り回されることなく、親子で納得のいく決断ができるはずです。
ステップ1:準備編 – 親子で「わが家のものさし」を作るためのチェックリスト
見学や相談にやみくもに行っても、「何を聞けばいいか分からなかった」「どこも良く見えて決められない」ということになりがちです。そうならないために、まずはご家庭の中で「何を大切にするか」という基準、つまり「わが家のものさし」を明確にすることが不可欠です。
以下のチェックリストを使って、親子で一緒に、あるいはそれぞれで考えを整理してみてください。完璧な答えを出す必要はありません。「現時点での希望」として書き出すことが、比較検討のブレない「軸」を作ります。
チェック項目 | 質問のヒント | 我が家の場合?(記入例) |
---|---|---|
本人の得意・好き・興味 | どんな作業に集中できる? 何をしている時が楽しそう? パソコンは好き? 手先は器用? | PCで決まった手順のデータ入力は集中できる。一人で絵を描いたり、黙々と作業したりするのが好き。 |
本人の苦手・不安・課題 | どんな環境が苦手?(騒がしい、人が多い等) 体力面の課題は? コミュニケーションでの悩みは? | 急な予定変更や、複数のことを同時に頼まれる(マルチタスク)のが苦手。朝起きるのが辛い日がある。雑談が苦手で緊張してしまう。 |
希望する働き方・仕事内容 | どんな仕事に興味がある? 在宅ワーク? 事務職? 軽作業? フルタイムで働きたい? 短時間から始めたい? | 静かなオフィス環境でできるデータ入力や書類整理などの事務職。まずは週3日、1日4時間くらいから始めたい。 |
必要な配慮 | どんなサポートがあれば安心できる?(指示は具体的、休憩をこまめに等) 困ったときにどうしてほしい? | 指示は口頭だけでなく、メモで書いてほしい。パニックになりそうな時に、一人で落ち着ける場所(クールダウンできるスペース)が欲しい。 |
事業所に期待する訓練 | どんなスキルを身につけたい?(PCスキル、コミュニケーション能力、ビジネスマナー等) | WordとExcelの基本操作をしっかり学びたい。かかってきた電話の取り次ぎができるようになりたい。 |
通いやすさ(家族の視点) | 自宅からの距離や交通手段は? 乗り換えは少ない方がいい? 送迎は必要? | 自宅から公共交通機関(バス・電車)で30分以内。できれば乗り換えなし。浜松駅周辺エリアが理想。 |
家族との連携で望むこと | どのくらいの頻度で連絡が欲しい? 家庭での接し方についてアドバイスは欲しい? | 月に1回は三者面談で様子を共有してほしい。本人の状況について、定期的に連絡帳やメールで報告が欲しい。 |
ステップ2:情報収集・比較編 – 候補となる事業所を2〜3箇所に絞り込む
「わが家のものさし」ができたら、次はそのものさしを使って、数ある事業所の中から候補を絞り込んでいきます。最初から一つに決めようとせず、まずは2〜3箇所の候補を見つけることを目標にしましょう。
探し方の具体的な方法
- Webで探す:や、独立行政法人福祉医療機構が運営するといったポータルサイトが便利です。「浜松市」「就労移行支援」といったキーワードに加え、「IT特化」「在宅訓練あり」「送迎あり」など、ステップ1で明確になった希望条件で絞り込み検索をしてみましょう。
- 窓口で相談する:前述の浜松市障害者就労支援センター「ふらっと」や、お住まいの区の障害福祉課に、ステップ1のチェックリストを持参して相談してみましょう。専門家の視点から、お子さんに合いそうな事業所の候補をいくつか提案してもらえます。
- 相談支援専門員に聞く:すでに担当の相談支援専門員がいる場合は、最も頼りになるパートナーです。お子さんのことをよく理解してくれている専門家と一緒に、候補を検討してもらいましょう。
比較検討するときの7つのポイント
候補が見つかったら、各事業所のウェブサイトやパンフレットを見ながら、以下の7つのポイントで比較検討します。この表を使って情報を整理すると、それぞれの事業所の長所・短所が明確になります。
比較ポイント | チェックすること |
---|---|
① プログラム内容 | 希望するスキル(PC、事務、デザイン、軽作業等)が学べるか? カリキュラムは個別対応か、集団か? SST(社会生活技能訓練)やストレスコントロール、アンガーマネジメントなど、障害特性に合わせたプログラムは充実しているか? |
② 就職実績 | 就職率だけでなく「定着率(就職後半年、1年、3年など)」が非常に重要。どんな企業・職種への就職実績が多いか? 自分の希望するキャリアパスと合っているか? |
③ サポート体制 | スタッフの専門性(精神保健福祉士、キャリアコンサルタント等)や経験は? スタッフ1人あたりの利用者数は? 個別面談の頻度はどのくらいか? 家族との連携は密か? |
④ 事業所の雰囲気 | ウェブサイトの写真や利用者の声から推測する。利用者の年齢層や障害種別はどうか? 活気がある雰囲気か、静かで落ち着いた雰囲気か? |
⑤ 設備・環境 | 集中できる個別ブースはあるか? リラックスできる休憩スペースは? バリアフリー対応はされているか? PCなどの機材は新しいか? |
⑥ 通いやすさ | 交通の便、最寄り駅やバス停からの距離。ラッシュ時の混雑具合。送迎サービスの有無や範囲。 |
⑦ 在宅利用の可否 | 体調が不安定な時期や、通所が困難な場合に、在宅で訓練を受けられる制度があるか? オンラインでの面談や相談に対応しているか? |
ステップ3:行動編 – 見学・体験で「本当に合うか」を最終確認
情報収集と比較検討が終わったら、いよいよ最終段階です。候補に挙げた事業所に実際に足を運び、ウェブサイトや資料だけでは決して分からない「生の情報」に触れ、親子で「本当にここが合うか」を確かめます。
1. 見学・相談の予約
候補の事業所(2〜3箇所)に電話かウェブサイトのフォームから連絡し、見学・相談の予約をします。その際、「本人の就労について相談したい家族です」と明確に伝え、可能であれば親子で訪問したい旨を伝えましょう。見学は1箇所だけでなく、必ず複数行くのが鉄則です。比較することで、それぞれの良さや違いがより鮮明になります。
2. 見学当日の準備
- 持ち物:ステップ1で作成した「わが家のものさし」チェックリスト、筆記用具、質問したいことをまとめたメモ、A4サイズの書類が入るカバン(パンフレット等をもらうため)。障害者手帳などをお持ちであれば持参すると話がスムーズです。
- 服装:スーツなどである必要はありません。清潔感のある普段着で大丈夫です。
- 心構え:親子で参加するのが理想ですが、本人が緊張してしまう場合は、まずご家族だけで話を聞きに行くのも一つの方法です。可能であれば、相談支援専門員など、客観的な視点を持つ第三者に同行してもらうと、より多角的に事業所を見ることができます。
3. 現地での確認(家族だからこそ聞きたい質問リスト)
見学は、ただ説明を受けるだけではもったいない。ステップ1のチェックリストを元に、積極的に質問しましょう。以下に、ご家族の視点から特に確認したい質問の例を挙げます。
家族のための質問リスト
支援内容について
- 「(チェックリストを見せながら)うちの子はこのような特性と希望があるのですが、こちらでは具体的にどのような支援計画(個別支援計画)を立てていただけますか? サンプルなどがあれば見せていただくことは可能ですか?」
- 「本人が〇〇というスキルを身につけたいと考えているのですが、どのプログラムで、どのくらいの期間で習得可能でしょうか?」
- 「過去に、うちの子と似たような課題(例:朝起きるのが苦手、対人関係が不安など)を持つ方を支援されたご経験があれば、どのようにサポートされたか事例を教えていただけますか?」
家族との連携について
- 「家族との面談は、どのくらいの頻度で、どのような形(対面、オンライン、電話など)で行われますか?」
- 「本人が家で不安定になった時や、進路について急ぎで相談したい時など、緊急時に連絡・相談することは可能ですか?その場合の窓口はどなたになりますか?」
- 「親として、子どもの就労に向けて家庭でできることは何でしょうか? 日々の生活での関わり方など、アドバイスをいただけますか?」
就職活動とその後について
- 「企業実習(インターンシップ)は必須ですか? 実習先はどのように探すのでしょうか? また、実習中のサポートはありますか?」
- 「就職後の定着支援について、具体的なサポート内容を教えてください。例えば、就職後1ヶ月目、3ヶ月目、半年後で、本人との面談頻度や企業との連絡調整はどのように行いますか?」
- 「万が一、就職先で人間関係のトラブルや仕事上の困難が生じた場合、事業所としてどのように介入・支援していただけますか?」
雰囲気・環境について
- 「1日の典型的なスケジュールを教えてください。休憩時間はどのように過ごす方が多いですか?」
- 「利用者さん同士の交流はどの程度ありますか? グループワークなどは活発ですか?」
- 「スタッフの方々は、どのようなご専門(資格や経歴)をお持ちですか? スタッフの定着率はいかがですか?」
4. 体験利用と最終決定
見学をして、親子ともに「ここ、いいかもしれない」と最も感触の良かった事業所で、可能であれば「体験利用」をさせてもらいましょう。多くの事業所では、1日〜数日間、実際のプログラムに無料で参加できます。
この体験利用が、最終決定のための最も重要なステップです。お子さん自身が、実際のプログラムに参加し、事業所の空気感に触れ、「ここなら毎日通えそう」「ここのスタッフさんなら信頼して相談できそう」と感じられるかどうか。その感覚が、何よりも大切な決め手となります。ご家族も、体験を終えたお子さんの表情や感想をじっくりと聞き、無理強いすることなく、親子で心から納得した上で最終的な利用申請に進みましょう。
まとめ:一人で抱え込まないで。まずは「相談」から始めましょう
お子さんの将来を想い、最適な就労移行支援事業所を探す旅は、決して平坦な道のりではないかもしれません。しかし、これまで見てきたように、正しいステップを踏むことで、道は必ず開けます。
重要なのは、「①親子で希望を整理し(わが家のものさし作り)」、「②情報を集めて客観的に比較し(候補の絞り込み)」、そして「③実際に足を運んで肌で感じる(見学・体験)」というプロセスです。このプロセスを通じて、お子さんにとって、そしてご家族にとって、最も納得のいく選択ができるはずです。
忘れないでください。就労移行支援は、お子さんの自立を支えるだけでなく、これまで一人で、あるいは家族だけで抱え込んできた重荷を分かち合い、共に未来を考えるための強力なパートナーです。「完璧な事業所」を探すのではなく、「わが子にとって最もフィットする事業所」を見つけるという視点を大切にしてください。
もし、この記事を読んでも「何から始めればいいか、まだ分からない」と感じているなら、まずは一本、電話をかけることから始めてみませんか。その小さな一歩が、未来を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
浜松市の主な相談窓口リスト
一人で悩まず、まずは専門家に相談してみましょう。
- 浜松市障害者就労支援センター ふらっと
仕事に関する最初の相談に最適な、市の委託機関です。手帳がなくても無料で相談できます。
公式サイトはこちら - お住まいの区役所 障害福祉担当課
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