その「働きづらさ」、あなただけのせいじゃない
この記事は、浜松市にお住まいで、発達障害の特性によって就職や仕事に困難を感じている20代のあなたに向けて書いています。
「面接でうまく自分を伝えられない」
「頑張っているのに、なぜか仕事が長続きしない」
「周りの人と同じようにできない自分はダメなんじゃないか」
「そもそも、自分にどんな仕事が向いているのかわからない」
もし、あなたが今、このような悩みを一人で抱え込んでいるとしたら、まず知ってほしいことがあります。その「働きづらさ」は、決してあなたの努力不足や能力の低さが原因ではありません。それは、あなたの持つユニークな「特性」と、社会や職場の「環境」との間に、ミスマッチが生じているサインなのです。
この記事の目的は、そのミスマッチを解消し、あなたの特性を「弱み」ではなく「強み」として活かせる道筋を具体的に示すことです。そして、そのための最も強力な選択肢の一つである「就労移行支援」について、どこよりも詳しく、分かりやすく解説します。
読み終える頃には、漠然とした不安が「自分にもできるかもしれない」という具体的な希望に変わり、次の一歩を踏み出すための勇気と知識が手に入っているはずです。あなたのキャリアの新しい扉を開く、その最初の鍵が、ここにあります。
なぜ、発達障害のある20代は就職でつまずきやすいのか?
あなたが感じている困難は、決して個人的なものではありません。客観的なデータと、発達障害の特性から、多くの20代当事者が直面する共通の課題を紐解いていきましょう。この課題を正しく理解することが、解決への第一歩となります。
データが示す、若年層・発達障害者の就労ニーズの高まり
近年、障害者雇用を取り巻く状況は大きく変化しています。厚生労働省の調査によると、就労移行支援といった福祉サービスを利用して一般企業への就職を目指す人の中で、精神障害者や発達障害者の割合が顕著に増加しています。特に、「10代、20代の若年層」や「発達障害」のある利用者の増加が著しいことが報告されています。
また、静岡労働局が公表した令和6年の障害者雇用状況を見ても、雇用されている障害者のうち精神障害者の伸び率が13.2%増と最も大きく、発達障害を含む精神障害のある方の就労意欲と、企業側の雇用意欲が共に高まっていることがわかります。
これは、あなたが一人で悩んでいるのではない、という何よりの証拠です。多くの同じような特性を持つ仲間が、社会で働くことを目指し、そして実際に壁にぶつかっているのです。では、その「壁」の正体とは何なのでしょうか。
つまずきの具体的な4つの要因
発達障害のある20代が就職活動で直面する困難は、主に以下の4つの要因に集約されます。
- 自己分析の壁:自分の「取扱説明書」が作れない
就職活動の第一歩は「自己分析」ですが、発達障害の特性上、自分の得意・不得意を客観的に把握し、それを他者に分かりやすく言語化することに困難を伴う場合があります。多くの支援機関が指摘する通り、自分の強みや弱み、ストレスを感じる状況、必要な配慮などを整理できないまま面接に臨んでしまい、「自分でも何を伝えたいのか分からなくなる」という状況に陥りがちです。 - コミュニケーションの課題:暗黙のルールがわからない
面接での質疑応答、グループディスカッション、職場での「報告・連絡・相談」など、ビジネスシーンは「空気を読む」「相手の意図を察する」といった非言語的なコミュニケーションや暗黙のルールに満ちています。ASD(自閉スペクトラム症)の特性がある場合、言葉を文字通りに受け取ってしまったり、冗談や比喩が通じにくかったりすることで、面接官に「コミュニケーション能力が低い」と誤解されてしまうことがあります。実際の支援事例でも、面接練習で目線が合わない、声が小さいといった点から苦労するケースは少なくありません。 - 環境への不適応:エネルギーの消耗が激しい
多くの職場は、発達障害の特性を持つ人にとって刺激が強すぎる場合があります。例えば、- 感覚過敏:オフィスの蛍光灯の光、電話の音、人の話し声などが苦痛に感じる。
- マルチタスクの苦手さ:複数の業務を同時に頼まれるとパニックになり、ミスが増える。
- 変化への弱さ:急な予定変更や業務内容の変更に対応するのが難しい。
「職場になじめない、仕事が続かない」という体験談の多くは、こうした特性と職場環境のミスマッチが原因で、本人の気力や体力が過剰に消耗されてしまうことに起因します。
- 二次障害のリスク:失敗体験が自信を奪う
就職活動での不採用や、就職後の失敗体験が繰り返されると、「自分は何をやってもダメだ」という無力感に苛まれ、うつ病や不安障害、引きこもりといった「二次障害」を引き起こすリスクが高まります。専門家は、二次障害がある場合は治療を優先すべきだと指摘しており、無理に就職活動を続けることが、かえって状況を悪化させる可能性も認識しておく必要があります。
重要なポイント
20代の発達障害当事者が就職でつまずくのは、個人の能力の問題ではなく、「自己分析の困難」「コミュニケーションの特性」「環境とのミスマッチ」「二次障害のリスク」という構造的な課題が原因です。これらの課題は、一人で解決しようとすると非常に困難ですが、専門的なサポートを受けることで乗り越えることが可能です。
その悩みを解決する鍵「就労移行支援」とは?
前章で挙げたような複雑な課題を、たった一人で乗り越えるのは至難の業です。そこで、頼れるパートナーとなるのが「就労移行支援」という福祉サービスです。ここでは、その正体と、あなたが受けられる具体的なサポート内容を、専門用語を避けて分かりやすく解説します。
一言でわかる定義:「就職を目指す大人のための予備校」
「就労移行支援」と聞くと、何やら難しそうに感じるかもしれません。しかし、その本質は非常にシンプルです。一言でいえば、「一般企業への就職を目指す、障害のある大人(18歳〜64歳)のための『就職予備校』」のような場所です。
大学受験の際に予備校が、志望校合格というゴールに向けて、自己分析(模試)、学力向上(授業)、受験戦略(進路相談)をトータルでサポートしてくれるように、就労移行支援事業所は、「あなたに合った企業への就職と、その後の定着」というゴールに向けて、専門スタッフが伴走してくれる心強い存在なのです。
受けられる5つのコアサポート
就労移行支援事業所で受けられるサポートは多岐にわたりますが、大きく分けると以下の5つの柱で構成されています。
- 自己理解プログラム:自分の「取扱説明書」を作成する
専門のスタッフとの面談や心理学的なプログラムを通じて、自分の障害特性、得意なこと、苦手なこと、ストレスの原因、必要な配慮などを客観的に整理します。これは、自分自身の「取扱説明書」を作る作業です。これにより、自分に合う仕事や職場環境が明確になり、面接でも自信を持って自分のことを説明できるようになります。 - 職業訓練:働くためのスキルを身につける
個別の支援計画に基づき、就職に必要なスキルを学びます。内容は事業所によって様々ですが、一般的には以下のようなプログラムが提供されています。- PCスキル:Word、Excel、PowerPointの基礎から応用、事業所によってはプログラミングやWebデザインなど専門的なスキルも学べます。
- ビジネスマナー:挨拶、電話応対、名刺交換など、社会人としての基本を学びます。
- コミュニケーション訓練(SST):ソーシャルスキルトレーニング(SST)を通じて、職場での報告・連絡・相談や、同僚との適切な距離の取り方などを実践的に練習します。
- 職場探しと実習:ミスマッチを防ぐ「お試し就労」
事業所は、障害者雇用に理解のある多くの企業とネットワークを持っています。その中から、あなたの希望や特性に合った求人を探してくれます。さらに、最も重要なのが「企業実習(インターンシップ)」です。実際に興味のある企業で数日間〜数週間働くことで、仕事内容や職場の雰囲気が自分に合うかどうかを、入社前に確認できます。この「お試し」期間があることで、就職後の「こんなはずじゃなかった」というミスマッチを大幅に減らすことができます。 - 就職活動サポート:専門家と二人三脚で内定を目指す
応募書類(履歴書・職務経歴書)の作成支援、模擬面接、ハローワークへの同行など、就職活動のあらゆる段階で専門スタッフがマンツーマンでサポートします。特に、障害特性をどう伝えれば企業に安心してもらえるか、といった戦略的なアドバイスを受けられるのは大きなメリットです。 - 就職後の定着支援:働き続けるための「お守り」
就労移行支援のサポートは、就職したら終わりではありません。就職後も、職場での人間関係や仕事の悩みについて、定期的にスタッフに相談できます。必要であれば、スタッフがあなたと企業の間に入って、環境調整の話し合いをしてくれることもあります。この「就労定着支援」は最長で3年半続き、あなたが職場で安心して働き続けるための強力なセーフティネットとなります。
利用に関する不安を解消!Q&A
就労移行支援に興味を持っても、利用にあたっていくつかの疑問や不安が浮かぶかもしれません。ここでは、よくある質問にお答えします。
Q1. 利用料金はかかりますか?
A. ほとんどの場合、自己負担なし(無料)で利用できます。
就労移行支援は障害福祉サービスの一つであり、利用料は国と自治体が9割を負担します。自己負担は1割ですが、前年の世帯収入に応じて上限額が定められています。具体的には、住民税非課税世帯の方は自己負担0円です。大手事業所のLITALICOワークスによると、利用者の約9割が自己負担なく利用しているとのことです。詳しい自己負担額については、お住まいの市区町村の障害福祉課で確認できます。
Q2. 障害者手帳がないと利用できませんか?
A. 手帳がなくても利用できる場合があります。
障害者手帳をお持ちでない方でも、医師の診断書や意見書があり、「障害福祉サービス受給者証」が自治体から発行されれば、利用は可能です。発達障害に特化したディーキャリアなども「まずはお気軽にご相談ください」と案内しており、自分が対象になるか分からない場合でも、まずは事業所に相談してみるのが良いでしょう。
Q3. 利用期間はどのくらいですか?
A. 原則として最長2年間です。
利用できる期間は法律で最長24ヶ月と定められています。ただし、全員が2年間利用するわけではありません。多くの人は半年から1年ほどで準備を整え、就職していきます。あなたの状況や目標に合わせて、スタッフと相談しながら個別の支援計画を立てていくことになります。
【最重要】浜松市で失敗しない!あなたに合う就労移行支援事業所の選び方
就労移行支援は、あなたの人生を大きく左右する可能性のある重要な選択です。しかし、「どこを選べばいいのかわからない」というのが正直なところでしょう。この章では、浜松市であなたに最適な事業所を見つけるための、具体的で実践的なステップを解説します。ここがこの記事の最も重要な部分です。
浜松市の現状:市を挙げた支援体制の強化
まず知っておきたいのは、浜松市が障害のある人の就労支援に非常に力を入れているという事実です。市はを策定し、その中で「就労支援と雇用促進」を分野別施策の重要な柱として掲げています。
具体的には、福祉施設から一般就労への移行者数を増やすための数値目標を設定したり、企業が障害者雇用を進めやすくなるよう支援するを実施したりと、行政が積極的に後押ししています。
こうした背景もあり、浜松市内では就労移行支援を含む障害福祉施設の事業所数が増加傾向にあり、あなたにとって選択肢が豊富にある、恵まれた環境だと言えます。
STEP1:事業所のタイプを知る
浜松市内にある就労移行支援事業所は、その運営母体や特徴によって、大きく3つのタイプに分けられます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自分の希望と照らし合わせてみましょう。
- 大手・全国展開型(例:LITALICOワークス)
メリット:全国規模で蓄積された豊富な就職実績とノウハウがあります。プログラムが体系化されており、多様なニーズに対応できます。大手企業との連携も強く、インターン先や求人の選択肢が広いのが魅力です。LITALICOワークスは浜松市内に複数の事業所を構えており、アクセスしやすい場所を選べます。
こんな人におすすめ:豊富な選択肢の中から自分に合うものを見つけたい人、安定したサポート体制を求める人。 - 発達障害特化型(例:ディーキャリア)
メリット:発達障害の特性理解に深く根ざした、専門的なプログラムが最大の強みです。ディーキャリアのように、「自己理解」「コミュニケーション」「ストレス対処」といった、発達障害のある方がつまずきやすいポイントに特化したカリキュラムを提供しています。同じ特性を持つ仲間と出会える安心感もあります。
こんな人におすすめ:自分の特性とじっくり向き合いたい人、専門的な支援を受けたい人。 - 地域密着型
メリット:地元の製造業やサービス業など、浜松市や静岡県西部の企業との深いつながりを持っている場合があります。アットホームな雰囲気で、一人ひとりに寄り添った、きめ細やかな支援が期待できます。経営者が地元に精通しているケースも多く、独自の求人ルートを持っていることもあります。
こんな人におすすめ:地元の企業に就職したい人、大規模な事業所が苦手な人。
STEP2:公式サイトと資料でチェックすべき5つのポイント
気になる事業所をいくつかリストアップしたら、まずは公式サイトやパンフレットをじっくり読み込み、以下の5つのポイントを比較検討しましょう。
- プログラム内容:自分に必要なスキルが学べるか?
自分が学びたいスキル(例:Excel、Word、プログラミング、デザインなど)の講座があるかを確認します。それ以上に重要なのが、発達障害の特性に配慮したプログラム(SST、自己理解、アンガーマネジメント、ストレスコントロール等)がどれだけ充実しているかです。プログラムの紹介ページを見て、自分が抱える課題を解決できそうかイメージしてみましょう。 - 就職実績と定着率:信頼できる出口戦略があるか?
「就職者数〇〇名!」という数字だけでなく、その内訳を見ることが重要です。「どんな業界・職種に」「何人」就職しているのかを確認し、自分の希望と合っているかを見極めます。そして、最も重要な指標が「就職後6ヶ月以上の定着率」です。これは、事業所の支援が本当に利用者の特性とマッチした職場選びにつながっているかを示す、信頼性の高いデータです。公表されていない場合は、見学時に必ず質問しましょう。 - サポート体制:専門家が伴走してくれるか?
スタッフの専門性も重要なチェックポイントです。精神保健福祉士、社会福祉士、キャリアコンサルタントといった有資格者が在籍しているかは、支援の質を測る一つの目安になります。また、個別支援計画をどのように立てるのか、スタッフとの面談はどのくらいの頻度で行われるのかも確認しましょう。 - 事業所の雰囲気:自分に合う環境か?
事業所のブログやSNSは、日常の雰囲気を知るための貴重な情報源です。利用者の年代や男女比、イベントの様子、プログラムの風景などを見て、自分がその場にいることを想像してみましょう。「静かな環境で集中したい」「仲間と交流しながら頑張りたい」など、自分の好みに合うかどうかが大切です。 - 企業インターン(実習)先:選択肢は豊富か?
どんな企業で職場実習ができるかは、自分に合う職場を見つける上で非常に重要です。実習先のリストや過去の実績を公開している事業所は、企業との連携に自信がある証拠です。多様な業種・職種の実習先が用意されていれば、それだけ自分にぴったりの仕事を見つけられる可能性が高まります。
STEP3:必ず「見学・体験」に行く
ウェブサイトや資料でどれだけ情報を集めても、最終的には「百聞は一見に如かず」です。必ず2〜3ヶ所の事業所に足を運び、見学や体験利用をしましょう。実際にその場の空気を感じ、スタッフや他の利用者と話すことで、ウェブだけでは分からなかった多くのことが見えてきます。
見学は、あなたが事業所を「審査」する場です。遠慮せずに、気になることはどんどん質問しましょう。以下に、見学・体験時に確認すべき質問リストを用意しました。ぜひ活用してください。
見学・体験で確認すべき質問リスト
- 利用者について:「私のような20代で、発達障害(ASD/ADHDなど)のある方は、現在何名くらい利用されていますか?また、どのようなプログラムを主に利用されていますか?」
- 配慮について:「私には〇〇という特性(例:感覚過敏で大きな音が苦手、衝動的に行動してしまう)があるのですが、どのような配慮をしていただけますか?具体的な事例があれば教えてください。」
- 雰囲気について:「スタッフの方と利用者の皆さんは、普段どのようにコミュニケーションを取っていますか?事業所全体の雰囲気は、和気あいあいとしていますか、それとも静かに集中する感じですか?」
- 実績について:「浜松市内の〇〇業界(例:製造業、IT、事務職)への就職実績はありますか?具体的な企業名を教えてもらうことは可能ですか?」
- 就職活動について:「企業実習はどのような流れで行いますか?実習先はどのように決めるのでしょうか?」
- 気軽さの確認:「今日は見学だけですが、また改めて相談に来ても大丈夫ですか?」
成功事例から学ぶ:就労移行支援で人生が変わった20代のストーリー
理論やデータだけでは、なかなか自分事として捉えにくいかもしれません。ここでは、就労移行支援を利用して「自分らしい働き方」を見つけた20代の先輩たちの、リアルなストーリーをご紹介します。これらは、エンカレッジやKaienなどの支援機関が公開している事例を参考に、浜松市の20代というペルソナに合わせて再構成したものです。
事例1:Aさん(23歳・男性・ASD傾向)「自分の”こだわり”を”強み”に変えて、メーカーの品質管理へ」
- 利用前の悩み:
大学を卒業後、飲食店のアルバイトを始めたが、人間関係がうまくいかず1ヶ月で退職。その後もいくつかのアルバイトを転々とするが、どれも長続きしなかった。「マニュアル通りにやらないと気が済まない」「一度気になると、他のことが手につかなくなる」といった自分の”こだわり”が、同僚からは「融通が利かない」と見られ、孤立しがちだった。自分でも「どうして周りと同じようにできないんだろう」と悩み、自信を失っていた。 - 支援で得たこと:
浜松市内の就労移行支援事業所に通い始め、まず取り組んだのは「自己理解プログラム」。専門スタッフとの対話を通じて、自分の「こだわりが強い」という特性が、裏を返せば「ルールを遵守し、細部まで正確に物事を進められる」という強みであることに気づかされた。次に、事業所内の「模擬会社プログラム」に参加。他の利用者とチームを組み、報告・連絡・相談の練習を繰り返すことで、自分の考えを相手に伝えるスキルを実践的に学んだ。 - 就職後:
スタッフから「その正確性と集中力は、品質管理の仕事に向いているかもしれない」と提案され、浜松市内の自動車部品メーカーでの企業実習に参加。実習での真面目な働きぶりが評価され、そのまま障害者雇用枠で採用された。現在は品質管理部門で、製品の精密なチェックを担当。「自分の特性が、会社の製品の安全を守ることに直接つながっている」と、大きなやりがいを感じながら働いている。
事例2:Bさん(25歳・女性・ADHD傾向)「ミス連発で自信喪失。タスク管理を学び、IT企業へ再就職」
- 利用前の悩み:
地元の商社で事務職として働いていたが、ケアレスミスやタスクの抜け漏れが頻発。上司からは「もっと注意しなさい」と叱責され続け、1年で退職。複数の作業を同時に進めるマルチタスクが苦手で、電話応対中に来客があると、どちらの要件も忘れてしまうことがあった。「自分は社会人として失格だ」と深く落ち込み、再就職への恐怖心から、半年ほど家に引きこもりがちになっていた。 - 支援で得たこと:
親の勧めで就労移行支援の体験に参加。そこで、ADHDの特性に合わせた具体的な対策を学べることを知る。利用を開始し、PCスキル訓練で入力作業の正確性を向上させると同時に、タスク管理ツール(TrelloやAsanaなど)の使い方や、ポモドーロ・テクニックといった時間管理術を習得。また、ストレスコントロールのプログラムで、パニックになりそうな時の対処法を学び、心身のコンディションが安定していった。 - 就職後:
就職活動では、支援スタッフと一緒に「障害への理解があり、比較的自分のペースで仕事が進められる環境」を軸に企業を探した。結果、浜松市内に新しくできたIT企業のデータ入力・サポート職に内定。週1回の在宅勤務も認められており、通勤のストレスが少ない日は在宅で集中して作業するなど、自分らしいペースで働けている。「ミスをゼロにはできないけど、工夫次第でカバーできる。そう思えるようになったのが一番の収穫です」と笑顔で語る。
【実践編】浜松市で就職を成功させるための完全ロードマップ
ここまでの情報で、就労移行支援の全体像と可能性が見えてきたはずです。この最後の章では、あなたが今日から具体的に行動を起こすための「完全ロードマップ」を提示します。ステップバイステップで進めていくことで、着実にゴールに近づくことができます。
STEP1:準備フェーズ「自分を知り、ゴールを設定する」
焦って事業所を探し始める前に、まずは自分自身と向き合う時間を作りましょう。この準備が、後のすべてのステップの土台となります。
□ [アクション1] 自分の「得意」と「苦手」を言語化する
- 方法1:客観的なツールを使う
多くの就労移行支援事業所が、見学や相談の際に簡単なアセスメント(職業適性診断など)を無料で実施してくれます。まずはこれを利用して、客観的な視点を取り入れましょう。 - 方法2:過去を振り返る
「時間を忘れて没頭できたこと」「人から褒められたこと」はあなたの得意分野のヒントです。逆に、「何度も失敗したこと」「強いストレスを感じたこと」は、避けるべき環境や業務を示唆しています。具体的なエピソードと共に書き出してみましょう。 - 方法3:他者からのフィードバックを得る
信頼できる家族や、学生時代の恩師、過去の支援者などに「私の長所と短所って、客観的に見てどんなところだと思う?」と勇気を出して聞いてみましょう。自分では気づかなかった意外な一面が見えることがあります。
成果物:これらの情報をまとめた「強み・弱み分析シート」を作成する。
□ [アクション2] 譲れない「働き方」の条件を明確にする
「どんな仕事でもいい」という状態では、良いマッチングは望めません。以下の項目について、自分にとっての優先順位をつけましょう。
- 優先順位の付け方:「これだけは譲れない(必須)」「できれば欲しい(希望)」「なくても良い(不要)」の3段階で分類します。
- 項目例:
- 業務内容:ルーティンワーク中心か、変化がある仕事か。PC作業か、軽作業か。人と話す仕事か、黙々とやる仕事か。
- 職場環境:静かな環境か、活気がある環境か。パーテーションなどで区切られた個人スペースはあるか。在宅勤務は可能か。
- 勤務条件:週の勤務日数や時間(例:週30時間以上)。残業の有無。給与水準。
- 求める配慮:指示は口頭か、文章か。一度に一つの指示か。質問しやすい雰囲気か。
成果物:優先順位をつけた「希望条件リスト」を作成する。
STEP2:選択フェーズ「最適な就労移行支援事業所を見つける」
準備フェーズで作成した2つのシートを手に、いよいよ事業所選びです。以下のチェックリストを使って、候補となる事業所を評価・比較しましょう。
□ 浜松市内の事業所選び方チェックリスト
チェック項目 | 確認するポイント | 確認方法 |
---|---|---|
プログラム内容 | 発達障害の特性理解を深めるプログラム(SST、自己理解等)があるか?希望職種(事務、IT、軽作業等)の専門スキルを学べるか? | 公式サイトのプログラム紹介ページを確認。見学時に「〇〇のスキルを身につけたいのですが、可能ですか?」と質問する。 |
サポート体制 | スタッフは発達障害への理解が深いか?過去の支援事例を聞けるか?スタッフ1人あたりの担当利用者数は? | 見学時に「ADHDの不注意にはどんな対策を一緒に考えますか?」など具体的に質問する。スタッフの受け答えや表情を見る。 |
就職実績 | 浜松市内や静岡県西部地域への就職実績は豊富か?希望する業界への実績はあるか?定着率は高いか? | 公式サイトの実績データを確認。見学時に「直近1年間の就職者数と、そのうち半年後も働き続けている人の割合(定着率)を教えてください」と聞く。 |
事業所の雰囲気 | 20代の利用者は多いか?静かに集中できる環境か?スタッフと気軽に話せそうか?清潔感はあるか? | 必ず体験利用に参加する。実際のプログラムの様子や、休憩時間の他の利用者との相性を自分の肌で感じる。 |
定着支援 | 就職後、どのようなサポート(定期面談、企業訪問、LINE相談等)をしてくれるか?具体的な頻度や内容。 | 卒業生の声を聞く、または定着支援の具体的な内容を質問する。「就職後、困った時にすぐに相談できる体制ですか?」と確認する。 |
STEP3:実行フェーズ「支援を使い倒し、スキルと自信を習得する」
通う事業所が決まったら、そこはあなたの「ホームグラウンド」です。受け身にならず、主体的に支援を活用し、スキルと自信を最大限に高めていきましょう。
□ 利用開始から内定獲得までのアクションプラン(モデルケース)
期間 | やること(アクション) | 達成目標(ゴール) |
---|---|---|
利用開始〜3ヶ月 | 生活リズムの安定化。自己理解プログラムへの集中参加。基礎的なPCスキル(Word/Excel)の習得。スタッフとの信頼関係構築。 | 週5日の安定した通所ができる。自分の強みと課題、必要な配慮を言語化できる。 |
4ヶ月〜6ヶ月 | 応用スキル訓練(Excel関数、PowerPoint等)。コミュニケーション訓練(SST)。複数の企業見学に参加。 | 希望職種に必要な基本スキルを習得し、企業実習に参加できるレベルの自信を身につける。 |
7ヶ月〜 | 希望する企業での実習(1〜2社)。実習の振り返りと課題の克服。応募書類の作成。模擬面接の反復練習。 | 自分に合う企業を見極め、複数の企業に応募し、面接に臨む準備が完了している。 |
□ 担当スタッフとの面談で必ず話すことリスト
定期的な面談は、進捗を確認し、軌道修正するための重要な機会です。以下の点を話す習慣をつけましょう。
- [振り返り] この1ヶ月で困ったこと、できるようになったこと、感じたことの共有。
- [目標設定] 次の1ヶ月の具体的な目標設定(例:「〇〇の資格勉強を1日1時間始める」「SSTで一度は自分から発言する」)。
- [相談・要望] 就職活動に関する不安や、プログラムへの要望(例:「もっと〇〇の練習がしたい」)。
STEP4:実践フェーズ「戦略的に就職活動を行う」
いよいよ最終段階です。就労移行支援で得たものを武器に、戦略的に就職活動を進めましょう。
□ 差がつく応募書類作成のポイント
- 職務経歴書を「学習歴」にしない:就労移行支援での訓練内容を、単なる「勉強しました」ではなく、「職務経験」として具体的に記述します。
(例:「Excel講座にてVLOOKUP関数やピボットテーブルを習得し、模擬業務におけるデータ集計作業を従来比20%効率化しました」) - 自己PR文で特性をポジティブに言い換える:障害特性を、仕事で活かせる強みとして表現し直します。
(例:「こだわりが強い」→「手順を遵守し、細部まで妥協しない正確性があります」
「過集中」→「一度タスクに取り掛かると、高い集中力を長時間維持できます」
「空気が読めないと言われる」→「同調圧力に流されず、客観的で論理的な判断ができます」)
□ 面接対策シミュレーション
面接は「自分という商品を、企業にプレゼンする場」です。以下の型を意識して、模擬面接で繰り返し練習しましょう。
想定質問1:「ご自身の障害特性と、それに対してご自身でされている工夫を教えてください」
回答の型:
1. 【特性の客観的説明】「私には注意欠如・多動症(ADHD)の特性があり、口頭での指示が抜け落ちてしまうことがあります」
2. 【具体的な対策】「そのため、就労移行支援の訓練を通じて、指示を受ける際は必ずメモを取り、最後に復唱して確認するという対策を徹底しております」
3. 【仕事への貢献】「この工夫により、指示の誤解や抜け漏れを防ぎ、正確に業務を遂行することができます」
想定質問2:「なぜ、多くの企業の中から弊社を志望されたのですか?」(オープン就労の場合)
回答の型:
1. 【企業への共感】「御社の『〇〇』という企業理念に深く共感いたしました。特に、障害者雇用において『〇〇』という取り組みをされている点に魅力を感じています」
2. 【自分の貢献】「私の『△△』という強みは、御社の□□という業務において、必ずお役に立てると考えております」
3. 【求める配慮】「その上で、先ほどお伝えしたような配慮をいただくことで、より安定して能力を発揮し、長く貢献していきたいと考えております」
最後に:浜松市で相談できる窓口・リソース一覧
この記事を読んで、「少し話を聞いてみたい」「一歩踏み出してみようかな」と感じたら、ぜひ以下の窓口に連絡してみてください。就労移行支援事業所以外にも、あなたを支えてくれる公的な機関がたくさんあります。一人で抱え込まず、まずは相談することから始めてみましょう。
- 浜松市 健康福祉部 障害保健福祉課
役割:障害福祉サービス全般に関する相談、障害者手帳の申請、受給者証の発行など、制度利用の最初の窓口です。
連絡先:浜松市公式サイト(電話番号:053-457-2034) - ハローワーク浜松 専門援助部門
役割:障害のある方向けの専門窓口で、職業相談や求人紹介を行っています。就労移行支援と連携して、あなたに合った求人を探してくれます。
連絡先:静岡労働局関連ページ - 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
役割:「働きたい」という就業面の支援と、「生活リズムを整えたい」といった生活面の支援を一体的に行ってくれる身近な相談機関です。
連絡先:静岡県内のセンター一覧
最後のメッセージ
あなたの「働きづらさ」は、あなただけのせいではありません。そして、あなたは一人ではありません。浜松市には、あなたを支えるための制度、場所、そして人がいます。
就労移行支援は、ゴールではなく、あなたらしいキャリアを歩み始めるためのスタートラインです。このガイドが、あなたの輝ける舞台を見つけるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
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