東京2020パラリンピックを契機に、障害者スポーツ(パラスポーツ)への関心は全国的に高まりました。静岡県でも、2025年に開催される東京デフリンピックの自転車競技会場となるなど、共生社会の実現に向けた機運が醸成されています。その中心的な役割を担うのが「公益財団法人 静岡県障害者スポーツ協会」です。
本記事では、静岡県障害者スポーツ協会の活動内容を深掘りするとともに、県内でも特に先進的な取り組みを進める浜松市の事例を交えながら、静岡県のパラスポーツ振興の現在地と未来像を多角的に解説します。
静岡県障害者スポーツ協会とは? – 目的と役割
「障害者スポーツの振興を図ることにより、スポーツを通じて障害者の社会参加を促進し、もって障害者福祉の向上に寄与すること」
これが、公益財団法人静岡県障害者スポーツ協会(以下、協会)の設立目的です。協会は、静岡県からの出資を受ける外郭団体として、県の障害者スポーツ施策と連携しながら、全県的な事業を展開する中核組織です。
その役割は、単に競技スポーツを推進するだけではありません。初心者向けのスポーツ教室から、指導者やボランティアの育成、県民への理解促進まで、パラスポーツに関わる「する」「みる」「ささえる」すべての活動を包括的に支援しています。県や市町、競技団体、福祉団体、そして民間企業をつなぐハブとして、静岡県のパラスポーツ振興に不可欠な存在となっています。
協会の多岐にわたる事業内容
協会は、障害のある人がスポーツに親しむ機会を創出し、競技力を高め、社会参加を促進するために、非常に幅広い事業を手がけています。
普及・啓発:パラスポーツの入口を広げる
多くの人々にパラスポーツの魅力を知ってもらうため、協会は様々な普及・啓発活動を行っています。
- スポーツ教室・巡回指導: 初心者を対象に、県内各地でスポーツ教室を開催。また、地域の要望に応じて指導員を派遣し、身近な場所でスポーツを体験できる機会を提供しています。
- ふじのくにパラスポーツ情報センター: 2023年に開設された相談窓口。専門の指導員が常駐し、スポーツを始めたい人への情報提供や相談対応を行っています。
- 障害者スポーツ応援隊の派遣: 静岡県ゆかりのパラリンピアンなどを学校や地域イベントに派遣し、講演や実技指導を通じてパラスポーツへの理解を深めています。
- パラアスリート発掘事業: 競技志向のある人材を発掘するための測定会や体験会を実施し、次世代のアスリート育成につなげています。
大会運営・選手派遣:アスリートが輝く舞台を創る
日頃の練習の成果を発揮する場として、各種大会の開催や選手派遣は協会の重要な事業です。
- 静岡県障害者スポーツ大会「わかふじスポーツ大会」: 毎年開催される県内最大の障害者スポーツの祭典。陸上や水泳、ボッチャなど17競技が実施され、多くの選手が参加します。
- 全国障害者スポーツ大会への選手派遣: 「わかふじスポーツ大会」などの成績優秀者を選抜し、静岡県、静岡市、浜松市の3選手団を全国大会へ派遣。アスリートの競技力向上を支援しています。
人材育成:支える力を育む
パラスポーツの裾野を広げるには、指導者やボランティアといった「支える人」の存在が欠かせません。協会は人材育成にも力を入れています。
- 初級パラスポーツ指導員養成講習会: 日本パラスポーツ協会公認の「初級パラスポーツ指導員」資格を取得するための講習会を毎年開催。障害の理解や指導法などを学び、地域での活動を担う人材を養成しています。
- スキルアップ講習会: 既に資格を持つ指導者を対象に、より専門的な知識や技術を学ぶための研修会を実施し、指導の質の向上を図っています。
データで見る静岡県のパラスポーツの現状と課題
協会の活動は、静岡県のパラスポーツ環境にどのような影響を与えているのでしょうか。公開されているデータから、その現状と課題を探ります。
大会参加者と指導者の推移
県のパラスポーツ振興における重要な指標の一つが、県障害者スポーツ大会(わかふじスポーツ大会)の参加者数です。平成28年度には3,000人を超える目標を達成しましたが、その後は減少し、特に新型コロナウイルス感染症の影響で大きく落ち込みました。近年は回復傾向にありますが、目標達成にはまだ道半ばです。
一方で、パラスポーツを支える人材は着実に増加しています。初級パラスポーツ指導員の県内登録者数は右肩上がりに増え続けており、令和4年度には872人に達しました。これは、協会の継続的な養成事業の成果と言えるでしょう。
浮き彫りになる課題
データからはいくつかの課題も見えてきます。
- 参加機会の回復と拡大: コロナ禍で落ち込んだ大会参加者数をいかに回復させ、さらに拡大していくかが喫緊の課題です。特に、県内の障害者数は知的・精神障害を中心に増加傾向にあり、新たなニーズへの対応が求められます。
- 地域偏在の解消: 指導者やボランティアは育成が進む一方、その活動が特定の地域に偏る可能性があります。県西部(浜松市等)は障害者人口が最も多い地域であり、全県的なバランスの取れた支援体制の構築が重要です。
- 経営基盤の強化: 協会の事業は県の補助金や委託金に大きく依存しており、自主財源の確保による経営基盤の安定化が求められています。
【浜松市の事例】地域で育むインクルーシブなスポーツ文化
県内最大の政令指定都市である浜松市は、協会と連携しつつ、独自の視点でパラスポーツ振興とインクルーシブな社会づくりを推進しています。県全体の課題解決のヒントが、ここにあるかもしれません。
市の基本方針と独自の取り組み
浜松市の障害者計画によると、市民アンケートで「最近行った社会参加」として「スポーツ」と回答した人は6.8%に留まっており、参加機会の創出が課題として認識されています。この課題に対し、市は「障がいの有無にかかわらず、スポーツや文化芸術に親しみやすい環境を整備する」という方向性を掲げています。
その象徴的な取り組みが、「Challenge_toインクルーシブin浜松」です。このイベントは、パラスポーツだけでなく、アートや世界の祭り、フードなどを通じて、年齢や性別、障害の有無に関係なく誰もが一緒に楽しめる場を創出するもの。「まぜこぜスポーツまるシェ®」と銘打った体験エリアでは、プロスポーツチームやパラスポーツチームが参加し、多様な人々が交流する機会を提供しています。
また、毎年開催される第70回浜松市障がい者「すまいる」スポーツ大会のように、伝統ある大会も継続し、競技志向の選手にも活躍の場を提供しています。
参加を後押しする多様な支援体制
浜松市では、スポーツへの参加を物理的・経済的に支える仕組みも整えられています。
- 相談支援体制: 市内には7つの「障がい者相談支援センター」が設置されており、障害のある人やその家族の身近な相談窓口となっています。これらのセンターは複数の社会福祉法人などが共同で運営しており、専門性を活かした支援を提供しています。
- 交通費助成: 就労継続支援施設などに公共交通機関で通所する人に対し、交通費の一部(年間最大7,000円)を助成する「障害者施設通所支援事業」を実施。経済的負担を軽減し、社会参加を後押ししています。
- 医療・リハビリとの連携: 聖隷三方原病院の地域障がい者総合リハビリテーションセンターは、パラスポーツチームの活動場所としても利用されるなど、医療機関がリハビリから地域スポーツへと繋ぐ重要な役割を担っています。
未来への展望 – 連携で築く共生社会
静岡県と協会、そして浜松市のような基礎自治体は、未来に向けてどのようなパラスポーツ振興の姿を描いているのでしょうか。
県の新たな一手:「静岡型障害者スポーツセンター」構想
静岡県は、大規模な専用アリーナを建設するのではなく、既存のスポーツ施設をネットワーク化する「静岡型障害者スポーツセンター」という独自の構想を進めています。これは、物理的な「ハコモノ」ではなく、機能的な「ハブ」を創るという考え方です。
この構想では、県障害者スポーツ協会などが担う「事務局」が中心となり、以下の3つの機能を果たします。
- 情報拠点機能: 県内の利用可能な施設や指導者、イベント情報を一元化し、発信する。
- 人材育成機能: 指導員やボランティアの養成、コーディネーターの配置を行う。
- 地域活動支援機能: 施設と利用者(団体)、支援者とのマッチングを行い、地域での活動をサポートする。
このネットワーク型の仕組みにより、県内どこに住んでいても、身近な施設でパラスポーツにアクセスできる環境を整えることを目指しており、令和8年度中の業務開始が予定されています。
官民連携の強化と国際大会の好機
もう一つの重要な動きが、2023年に設立された官民連携組織「ふじのくにパラスポーツ推進コンソーシアム(チームパラスポしずおか)」です。協会も参画するこの組織は、行政、スポーツ団体、民間企業、医療福祉団体などが連携し、それぞれの資源やノウハウを持ち寄ってパラスポーツを推進するプラットフォームです。これにより、これまで接点のなかった企業などとの新たな連携が生まれ、活動の幅が広がることが期待されています。
さらに、2025年11月に開催される東京2025デフリンピックでは、静岡県伊豆市の日本サイクルスポーツセンターが自転車競技(ロード・マウンテンバイク)の会場となります。この国際大会は、県民が世界のトップアスリートの競技を間近で観戦し、パラスポーツへの理解と関心を一気に高める絶好の機会となるでしょう。
まとめ
静岡県障害者スポーツ協会は、県のパラスポーツ振興における司令塔として、普及啓発から選手強化、人材育成まで、多岐にわたる重要な役割を担っています。その活動は、わかふじスポーツ大会の運営や指導者の育成といった形で着実に実を結んでいます。
一方で、浜松市のように、障害の有無を越えた「インクルーシブ」な視点で独自のイベントを展開し、きめ細やかな支援策を講じる地域の取り組みは、県全体のスポーツ参加率向上に向けた大きなヒントを与えてくれます。
今後は、「静岡型障害者スポーツセンター」構想という新たな枠組みのもと、協会がハブとなり、県、市町、民間企業、医療機関といった多様な主体がより一層強く連携していくことが求められます。東京2025デフリンピックという追い風も受けながら、静岡県が目指す「誰もがスポーツを通じて輝ける共生社会」の実現に向けた歩みは、着実に前進しています。


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