病気や障害を理由にキャリアを中断せざるを得なくなった方、あるいは、ご自身の特性と向き合い、より良い働き方を見つけるために一度立ち止まる決断をした方へ。再就職への道筋と、その間の生活費という二つの大きな不安に直面しているかもしれません。
結論から申し上げます。条件を満たせば、失業保険(雇用保険の基本手当)を受給しながら、浜松市内の就労移行支援事業所を利用することは可能です。さらに、障害のある方は「就職困難者」として認定されることで、一般の離職者よりも手厚い給付を受けられる大きな可能性があります。
この記事では、浜松市で再就職を目指すあなたが、利用できる制度を最大限に活用し、経済的な不安を解消しながら、自信を持って新たなキャリアへの扉を開くための具体的な方法を、専門家の視点から徹底的に解説します。
はじめに:再就職への不安、一人で抱えていませんか?
「就労移行支援というサービスは知っているけど、訓練期間中は収入がゼロになるのでは…」
「離職したから失業保険はもらえるはず。でも、訓練に通うと対象外になるのでは…」
このような疑問や不安は、多くの方が抱くものです。しかし、正しい知識があれば、これらの制度はあなたの強力な味方になります。この記事を読み終える頃には、ご自身の状況に最適な選択肢は何か、次に何をすべきかが明確になり、漠然とした不安が具体的な行動計画へと変わっているはずです。
【基礎知識】就労移行支援と失業保険、二つの制度を正しく理解する
二つの制度を併用するためには、まずそれぞれの役割を正確に理解することが不可欠です。
就労移行支援とは?浜松市での役割
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つです。一般企業への就職を目指す障害のある方(原則65歳未満)に対し、就職に必要な準備から就職後の定着までをトータルでサポートします。いわば「就職のためのパーソナルトレーナー」のような存在です。
- 役割:職業スキルの訓練、自己理解、ビジネスマナー、就職活動支援、職場定着支援など。
- 特徴:一人ひとりに合わせた「個別支援計画」に基づき、オーダーメイドの支援を提供します。
- 浜松市の状況:浜松市内には、IT特化型や大手、地域密着型など、29件以上(2025年時点)の多様な事業所が存在します。
失業保険(雇用保険の基本手当)とは?
失業保険(正式には雇用保険の基本手当)は、会社を辞めて失業状態にある方が、安定した生活を送りつつ、一日も早く再就職するための支援として給付される手当です。
- 目的:失業中の生活保障と求職活動の促進。
- 受給要件:「働く意思と能力がある」にもかかわらず失業状態にあり、原則として離職日以前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上あることなど、一定の条件を満たす必要があります。
【核心解説】就労移行支援と失業保険は併用できるのか?
ここからが本記事の核心です。二つの制度をどうすれば最も有利な条件で併用できるか、その戦略的な視点を解説します。
結論:なぜ併用が可能なのか?その法的根拠と仕組み
併用が可能な根拠は、失業保険の受給要件である「求職活動」の解釈にあります。ハローワークは、就労移行支援事業所への通所を「再就職に向けた積極的な求職活動」の一環として認めています。
就労移行支援は、障害者総合支援法に基づき指定された公的な訓練機関であり、その活動内容は失業保険が目的とする「再就職の促進」に合致するためです。利用者は、事業所から発行される「通所証明書」(または失業認定申告書への証明印)をハローワークに提出することで、求職活動実績として認められ、継続して手当を受給できます。
最重要ポイント:「就職困難者」認定で受けられる3つの絶大なメリット
障害や難病のある方が失業保険を受給する上で、絶対に知っておくべきなのが「就職困難者」という区分です。障害者手帳の所持者や、医師の意見書等で判断された方が該当し、就労移行支援の利用者は認定される可能性が非常に高いです。 認定されると、主に以下の3つの絶大なメリットがあります。
メリット1:受給条件の大幅な緩和
基本手当を受給するための雇用保険の加入期間が、一般の離職者よりも短くなります。
- 一般の離職者:離職日以前2年間に、被保険者期間が通算して12ヶ月以上必要。
- 就職困難者:離職日以前1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上あればOK。
これにより、例えば1年未満で退職した場合でも失業保険を受給できる可能性が生まれます。
メリット2:給付日数の大幅な延長
これが最大のメリットです。所定給付日数が一般の離職者よりも格段に長くなり、経済的な安心を得ながら、じっくりと訓練や就職活動に専念できます。
例えば自己都合で退職し、被保険者期間が1年以上5年未満の場合、一般離職者の給付日数が90日(約3ヶ月)であるのに対し、就職困難者は300日(約10ヶ月)もの期間、給付を受けられます。
メリット3:給付制限期間の免除
自己都合で退職した場合、通常は7日間の待期期間の後、さらに1ヶ月(法改正前は2ヶ月)の「給付制限」があり、この間は手当が支給されません。 しかし、就職困難者に認定されると、この給付制限が適用されません。 7日間の待期期間が終了すればすぐに給付が開始されるため、離職直後の経済的な空白期間を最小限に抑えられます。
併用のための具体的な手続きフロー
実際に併用を開始するための手続きは、以下の流れで進めるのが一般的です。
- 会社から離職票を受け取る:退職後、会社から「離職票-1」と「離職票-2」が郵送されてきます。
- ハローワークで初回手続き:ご自身の住所を管轄するハローワークへ行きます。持参するものは主に「離職票」「マイナンバーカード」「写真」「預金通帳」などです。ここで求職の申込みを行い、失業保険の受給資格を決定してもらいます。この際、必ず障害者手帳や医師の診断書を提示し、就職困難者としての認定について相談してください。
- 就労移行支援事業所の利用を開始する:(後述の「浜松市版ガイド」参照)事業所を決定し、利用契約を結びます。
- 失業認定日にハローワークへ行く:ハローワークから指定された「失業認定日」(通常4週間に1度)に、事業所の証明印が押された「失業認定申告書」を提出します。
- 給付金の受給:失業が認定されると、後日、指定した口座に基本手当が振り込まれます。以降、給付が終了するまでこのサイクルを繰り返します。
【浜松市版】具体的な手続きと相談窓口ガイド
それでは、浜松市で実際に手続きを進めるにはどうすればよいのでしょうか。具体的なステップと頼れる相談窓口をご紹介します。
ステップ1:まずは相談から。浜松市の頼れる窓口一覧
「何から始めればいいかわからない…」という方は、まず専門機関に相談しましょう。一人で抱え込む必要はありません。
- 各区役所の社会福祉課(障害保健福祉課):最も基本的な公的窓口です。制度の概要説明や市内の事業所リストの提供、申請手続きの案内を受けられます。
- 障害者就業・生活支援センター(愛称:なかぽつ):就労面と生活面を一体的に支援する機関です。ハローワークや事業所と連携し、具体的な就職相談ができます。
- ハローワーク浜松:障害のある方向けの専門窓口「専門援助部門」が設置されています。求人情報の提供だけでなく、就労移行支援の利用に関する相談も可能です。
- 浜松市ジョブサポートセンター:浜松市役所本館1階にある、市とハローワークが連携したワンストップ支援窓口です。福祉サービスの手続きのついでに就職相談ができます。
ステップ2:自分に合う事業所を探す。浜松市の代表的な就労移行支援事業所
相談窓口で情報を得たら、次は実際に通う事業所を探します。浜松市内には様々な特色を持つ事業所があります。必ず複数の事業所を見学・体験し、プログラム内容や雰囲気を比較検討することが成功の鍵です。
- LITALICOワークス(浜松、新浜松、浜松市役所前):業界最大手の一つ。累計17,000人以上の就職実績と豊富な企業連携が強みです。
- アクセスジョブ(浜松駅前、浜松田町):完全個別支援と500種類以上のプログラムが特徴。就職・定着率90%以上の高い実績を誇ります。
- ウェルビー(浜松駅前センターなど):全国展開する老舗の一つ。一人ひとりに寄り添った丁寧な支援に定評があります。
- 就労移行ITスクール浜松:プログラミングやWebデザインなど、ITスキルに特化。専門職を目指す方に人気です。
- ディーキャリア浜松オフィス:発達障害の特性に合わせたプログラムを提供しています。
利用申請と受給者証の交付
利用したい事業所が決まったら、お住まいの区役所の社会福祉課で障害福祉サービスの利用申請を行います。申請後、指定特定相談支援事業所の相談員が面談を行い、あなたの希望を基に「サービス等利用計画案」を作成します。この計画案を基に浜松市が審査を行い、利用が決定すると「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。この受給者証が、サービスを利用するための許可証となります。
注意:申請から受給者証の交付までは、おおむね1〜2ヶ月程度かかることが一般的です。利用開始したい時期が決まっている場合は、早めに準備を始めましょう。
ステップ4:ハローワークとの最強タッグを組む
就労移行支援とハローワークは、連携させることで効果が倍増します。浜松市では、市と国(静岡労働局)が「浜松市雇用対策協定」を結び、障害者雇用の推進で協力体制を築いています。
就労移行支援事業所の支援員にハローワークへ同行してもらうことで、あなたの障害特性や希望を専門的な言葉で的確に伝えてもらい、よりマッチした求人紹介につながりやすくなります。ハローワークの広範な求人情報と、就労移行支援の専門的な個別サポートの両方を最大限に活用しましょう。
費用はかかる?浜松市で利用できる経済的サポート
訓練期間中の費用は大きな関心事です。ここでは利用料と交通費について解説します。
就労移行支援の利用料:約9割が自己負担0円の理由
就労移行支援のサービス費用は原則1割が自己負担ですが、「負担上限月額」という制度があります。これは世帯の所得に応じて1ヶ月の負担額に上限を設けるもので、この制度により、利用者の約9割が自己負担0円(無料)で利用しています。
| 区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
|---|---|---|
| 生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
| 低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
| 一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300円 |
| 一般2 | 上記以外(所得割16万円以上) | 37,200円 |
自己負担が発生する場合でも、上限額以上の費用はかかりません。
交通費の不安を軽減!浜松市独自の交通費助成制度
事業所への通所交通費は原則自己負担ですが、浜松市には独自の助成制度があります。
「浜松市障害者施設通所支援事業」は、市内の障害福祉サービス事業所等へ通所する障害のある方に対し、交通費の一部を助成する制度です。助成金額は年度ごとに7,000円が上限で、申請は通所している就労移行支援事業所を通じて行います。 これは浜松市在住者にとって大きなメリットですので、事業所の見学時に必ず確認しましょう。
【ケース別】あなたの状況に合わせた最適アクションプラン
ご自身の状況に合わせて、取るべき行動の参考にしてください。
ケースA:すぐに訓練を始めたい方
【状況】離職後、心身ともに安定しており、すぐに再就職の準備を始めたい。
【推奨アクション】離職後、速やかにハローワークで失業保険の受給手続き(就職困難者認定の相談を含む)を開始すると同時に、就労移行支援事業所の見学・相談を進めましょう。同時並行で動くことが、スムーズな併用開始の鍵です。
今は療養に専念したい方
【状況】今はまだ求職活動や通所ができる状態ではないが、数ヶ月後には訓練を開始したい。
【推奨アクション】何よりも先に、ハローワークで「受給期間の延長申請」を行ってください。これにより、失業保険を受け取る権利を最大で3年間(本来の1年+延長3年)保持できます。 焦らず療養に専念し、体調が回復してから手続きを再開しましょう。
雇用保険の加入期間が足りない方
【状況】前職の在籍期間が短く、就職困難者の要件(1年以内に6ヶ月以上)を満たしていない。
【推奨アクション】残念ながら失業保険は受給できませんが、就労移行支援の利用は可能です。利用料は所得に応じて決まるため、無料で利用できる可能性は十分にあります。生活費については、障害年金など他の公的支援制度の活用を検討しましょう。
知っておくべき注意点:併給できない手当について
制度を最大限活用するために、いくつかの注意点も押さえておきましょう。
- 傷病手当金との併給は不可:健康保険から支給される傷病手当金は「働けない状態」の方を対象とするため、「働ける状態」が前提の失業保険とは同時に受給できません。
- 就労継続支援A型は対象外:就労継続支援A型は事業所と雇用契約を結ぶため「就労」とみなされ、失業保険の対象にはなりません。
- 障害年金との併給は可能:失業保険と障害年金は目的が異なるため、両方を受給することが可能です。
まとめ:経済的な安心を力に、新たな一歩を踏み出そう
この記事では、浜松市で就労移行支援を利用しながら失業保険を受給するための具体的な方法と知識を解説しました。
この記事の要点サマリー
- 就労移行支援と失業保険は併用可能です。
- ハローワークで「就職困難者」に認定されると、給付日数の延長や給付制限の免除など、大きなメリットがあります。
- 浜松市には、各区役所、ハローワーク、ジョブサポートセンターなど頼れる相談窓口が豊富にあります。
- 就労移行支援の利用料は約9割が無料。さらに浜松市独自の交通費助成制度(年度上限7,000円)も活用できます。
- すぐに活動できない場合は、失業保険の「受給期間の延長申請」を忘れずに行いましょう。
経済的な基盤を確保することは、安心して自分と向き合い、最適なキャリアを再設計するための第一歩です。一人で悩まず、まずは浜松市の相談窓口や気になる就労移行支援事業所に連絡を取ることから始めてみてください。あなたの「働きたい」という気持ちを、社会全体がサポートする体制が整っています。

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