障害者雇用促進法の段階的な改正により、企業の採用意欲が高まる中、静岡県、特に「ものづくりのまち」として知られる浜松市では、障害者雇用が大きな転換期を迎えています。雇用者数や実雇用率は過去最高を更新し続ける一方で、法定雇用率の達成状況には企業や機関によってばらつきが見られるのが現状です。
この記事では、最新の公的データに基づき、静岡県および浜松市における障害者雇用のリアルな動向を徹底分析します。具体的な求人トレンド、先進的な取り組みを行う優良企業の事例、そして就職活動を成功に導くための支援機関の活用法まで、網羅的に解説します。あなたの「働きたい」という想いを実現するための、確かな一歩がここから始まります。
静岡県の障害者雇用の「今」:データで見る現状と課題
まず、静岡県全体の障害者雇用の現状を、静岡労働局が公表した最新データから客観的に見ていきましょう。全体としてはポジティブな傾向が続く一方で、いくつかの課題も浮き彫りになっています。
民間企業の雇用状況:過去最高を更新するも、達成率は二極化
静岡労働局が2025年12月に公表した「令和7年 障害者雇用状況」によると、静岡県内の民間企業(従業員40.0人以上)における障害者雇用は、引き続き拡大傾向にあります。雇用されている障害者の総数は15,353.5人、実雇用率は2.44%となり、それぞれ16年連続、13年連続で過去最高を更新しました。
これは、企業の障害者雇用に対する意識の高まりと、継続的な取り組みの成果と言えるでしょう。しかし、手放しで喜べる状況ではありません。法定雇用率(2.5%)を達成している企業の割合は52.1%と、前年から微増したものの、依然として半数近くの企業が未達成の状況です。これは、障害者雇用に積極的な企業とそうでない企業との間で、取り組みに差が生じている「二極化」の現状を示唆しています。
公的機関の状況:浜松市の達成と教育委員会の課題
公的機関における雇用状況は、組織によって大きく異なります。特に浜松市では、その傾向が顕著です。
令和7年のデータによると、浜松市の市長部局等(市役所本体など)の実雇用率は2.89%と、法定雇用率の2.8%を上回り、達成しています。これは、市が率先して障害者雇用に取り組んでいる姿勢の表れです。
一方で、同じ浜松市内でも浜松市教育委員会の実雇用率は1.58%(法定雇用率2.7%)と、法定を大きく下回っており、46.0人もの不足数が報告されています。これは静岡県内の他の教育委員会と比較しても低い水準であり、市全体の大きな課題となっています。公的機関、特に教育現場におけるインクルーシブな環境整備と採用拡大が、今後の重要なテーマとなるでしょう。
どんな仕事がある?浜松市の障害者枠求人トレンド
法定雇用率の引き上げを背景に、浜松市内では障害者枠の求人が多様化しています。「ものづくりのまち」の強みを活かした製造業から、成長著しいIT分野まで、活躍の場は着実に広がっています。
基幹産業「製造業」と安定の「事務職」
浜松市の障害者雇用を支える最大の受け皿は、やはり製造業です。スズキや本田技研工業といった大手自動車メーカー、楽器のヤマハ、光技術で世界をリードする浜松ホトニクスなど、地域を代表する企業が拠点を構えています。求人の内容は、組立・検品・軽作業といった製造ラインの業務から、生産管理のサポート、データ入力、総務・人事などの事務補助まで多岐にわたります。安定した雇用環境と、大手ならではの充実した福利厚生が魅力です。
また、業種を問わず常に一定のニーズがあるのが事務職です。通販大手のスクロールや複合機メーカーのリコージャパンなどでは、本社機能での人事、総務、経理といったバックオフィス業務の求人が見られます。PCの基本スキルがあれば応募しやすく、経験を積むことでキャリアアップも目指せるため、人気の高い職種です。
成長分野「IT・専門職」と浜松ならではの「農福連携」
近年、全国的なIT人材不足を背景に、障害者雇用においてもIT・専門職の求人が増加しています。浜松市内でも、CLINKS株式会社のように在宅勤務でITエンジニアを募集する企業が登場しており、プログラミングやWebデザインのスキルを持つ人にとって大きなチャンスとなっています。高い集中力や論理的思考力といった特性を強みとして活かせる可能性を秘めた分野です。
さらに、浜松市が「ユニバーサル農業」として推進してきた「農福連携」も、新たな働き方の選択肢として定着しています。後述する京丸園株式会社を筆頭に、自然の中で自分のペースで働きたいと考える人にとって、農業は魅力的な選択肢となりつつあります。
義務から価値創造へ:浜松市の障害者雇用先進企業事例
法定雇用率の達成という義務を超え、障害者一人ひとりが持つ能力を最大限に引き出し、企業の成長に繋げている先進的な企業が浜松市には数多く存在します。ここでは、その中でも特に注目すべき3社と、その他の優良企業を紹介します。
京丸園株式会社:「農福連携」のパイオニア
浜松市を代表する「農福連携」の先進企業が、水耕栽培を手がける京丸園株式会社です。「ユニバーサル農業」を掲げ、障害の有無に関わらず誰もが働きやすい環境を追求しています。作業工程を細分化し、一人ひとりの特性に合わせた仕事を生み出すことで、現在では25名以上の障害のある従業員が活躍しています。
「障がい者だから利益が出ない、農業だから利益が出ないというのは間違った考え方。我々は利益を確保できていますよ。」
― 京丸園株式会社 代表 鈴木厚志氏
同社の取り組みは、障害者雇用が単なる社会貢献ではなく、生産性向上と組織全体の活性化に直結することを力強く証明しています。
株式会社ティージー:個々の特性に合わせた仕事の創出
自動車部品の組立を行う株式会社ティージーは、「社内の仕事を切り出すのではなく、障害のある人にできそうな仕事を外部から見つけてくる」というユニークな発想で雇用を創出しています。例えば、片側に麻痺がある従業員のために片手で安全に作業ができる専用治具を開発するなど、一人ひとりの特性に合わせたきめ細やかな配慮が特徴です。採用基準は「休まず出勤できること」「ゆっくり正確に作業すること」「本人がやってみたいという意思を持つこと」の3つ。スピードよりも着実性を重視する姿勢が、従業員の長期的な定着に繋がっています。
テイボー株式会社:丁寧なマッチングで長期定着を実現
マーキングペン先の製造で世界トップシェアを誇るテイボー株式会社は、インターンシップを効果的に活用し、入社後のミスマッチを防いでいます。ある特別支援学校の生徒を採用した際には、高校3年間で複数回の職場実習を実施。様々な業務を経験してもらう中で本人の適性と意欲を慎重に見極め、最終的に本人が最も自信を持って取り組めた業務での採用を決定しました。こうした丁寧なマッチングプロセスが、企業と本人の双方にとって良い結果を生み出しています。
その他の注目企業
浜松市及び静岡県内には、他にも多くの優良企業が存在します。
- 遠州鉄道株式会社:浜松市を基盤とする総合生活産業グループ。運輸、不動産、介護など多様な事業で障害のある社員が活躍しており、業務サポートチームを組織化してグループ全体の業務効率化にも貢献しています。
- 株式会社静岡銀行:特例子会社「しずぎんハートフル株式会社」を設立し、グループ全体の事務作業や清掃業務などを集約。DE&I(多様性、公平性、包括性)推進の一環として積極的に雇用を拡大しています。
- 南部化成株式会社:吉田町に本社を置くプラスチック製品メーカー。自動車、医療、住設分野で事業を展開し、企業のウェブサイトで「障がい者雇用」を明記し、多様な人材が活躍できる職場づくりを進めています。
一人で悩まない!浜松市の就職活動サポート活用術
「働きたい」という気持ちはあっても、何から始めればいいか分からない。そんな時、浜松市にはあなたの就職活動を力強くサポートしてくれる専門機関が多数存在します。一人で抱え込まず、これらの支援を積極的に活用することが成功への近道です。
ステップ1:最初の相談窓口「浜松市障害者就労支援センター ふらっと」
どこに相談すればいいか迷ったら、まずは浜松市障害者就労支援センター「ふらっと」に連絡してみましょう。ここは浜松市が委託して運営している公的な総合相談窓口で、障害者手帳の有無にかかわらず、無料で相談できます。
「ふらっと」の役割は、仕事を紹介することではなく、あなたの状況や希望を丁寧にヒアリングし、次に紹介する「就労移行支援事業所」など、最適な専門機関へ繋ぐ「ナビゲーター」です。就労に関するあらゆる悩みの「出発点」として、最適な道筋を示してくれます。
ステップ2:「就労移行支援事業所」でスキルアップと準備
「ふらっと」などから紹介される最も代表的な支援機関が「就労移行支援事業所」です。一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に、最長2年間、就職に必要なスキル習得から職場定着までを一貫してサポートする、いわば「就職のための学校」です。
浜松市内には29箇所以上の事業所があり、それぞれに特色があります。提供される支援は、自己分析、PCスキルやプログラミング等の職業訓練、ビジネスマナー、企業実習、履歴書作成・面接練習、就職後の定着支援など多岐にわたります。全国展開で実績豊富な「LITALICOワークス」、ITスキルに特化した「ランプ浜松」、個別支援に強みを持つ「アクセスジョブ」など、複数の事業所を見学・体験し、自分に合った場所を見つけることが重要です。
ステップ3:ハローワークと専門機関の連携活用
「ふらっと」や就労移行支援事業所と並行して、以下の公的機関も積極的に活用しましょう。これらの機関は互いに連携しているため、相談内容に応じて最適な場所を紹介してもらえます。
- ハローワーク浜松:障害のある方向けの専門窓口が設置されており、一般には公開されていない障害者専用求人の紹介や、応募書類の作成支援、面接トレーニングなど、具体的な就職活動のサポートを受けられます。
- 静岡障害者職業センター:職業能力の評価や、職場に支援員が同行するジョブコーチ支援など、より専門的なリハビリテーションサービスを提供します。
- 障害者就業・生活支援センター「だんだん」:浜松市・湖西市を管轄し、仕事だけでなく、健康管理や金銭管理といった生活面の課題も一体的に支援してくれます。
未来展望:法改正と浜松市の計画が拓く可能性
今後の法改正や浜松市の施策は、障害のある方にとってさらなる追い風となります。未来に向けた動きを理解し、キャリアプランに活かしましょう。
段階的な法定雇用率の引き上げ
障害者雇用促進法に基づき、民間企業の法定雇用率は段階的に引き上げられています。2024年4月に2.5%となり、さらに2026年7月には2.7%になることが決定しています。これにより、これまで対象外だった中小企業も新たに雇用義務の対象となるなど、企業の採用ニーズは今後ますます高まることが確実です。これは求職者にとって、大きなチャンスと言えるでしょう。
浜松市の後押し:「第4次浜松市障がい者計画」と「就労選択支援」
浜松市も、独自の計画で障害のある方の就労を強力に後押ししています。2024年度から始まった「第4次浜松市障がい者計画」では、「雇用・就労」が重要な柱とされ、福祉施設から一般就労への移行者数を2026年度に189人へ増やすという具体的な数値目標が掲げられました。
特に注目すべきは、2025年度から本格的に開始される新サービス「就労選択支援」です。これは、「自分にどんな仕事が向いているかわからない」という悩みを持つ方に対し、専門員が面談や短期間の作業体験を通じて能力や適性を客観的に評価し、本人がより良い働き方や支援サービスを選択できるようサポートする制度です。就労移行支援などを利用する前に、自分に本当に合った支援を見極めることが可能になり、ミスマッチを防ぎ、納得感のあるキャリア選択を実現する上で重要な役割を担います。
まとめ:多様な支援を力に、自分らしいキャリアを築く
本記事で見てきたように、2026年現在の静岡県、特に浜松市における障害者雇用の状況は、法定雇用率の引き上げという追い風を受け、企業の採用ニーズが高まり、働き方の選択肢も多様化しているポジティブな局面にあります。製造業や事務職といった安定した求人に加え、ITや農福連携といった新しい分野にも可能性が広がっています。
成功の鍵は、一人で抱え込まないことです。ハローワーク浜松を始め、「ふらっと」や就労移行支援事業所など、この記事で紹介した多様な支援機関のネットワークを最大限に活用してください。専門家と共に自己分析を深め、必要なスキルを身につけ、自分に合った職場を見つけるためのサポート体制は、浜松市にしっかりと整っています。
あなたの「働きたい」という気持ちを、ぜひ行動に移してみてください。このガイドが、その力強い第一歩となることを願っています。


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