高次脳機能障害の方の就労をサポート。浜松市の専門的な就労移行支援

病気や事故の後遺症として現れる「高次脳機能障害」。記憶力や集中力の低下といった症状は、外見からは分かりにくいため「見えない障害」とも呼ばれ、ご本人やご家族が社会から孤立してしまうケースも少なくありません。特に「働きたい」という意欲がありながらも、症状が壁となり、就労や職場復帰に困難を抱える方は多くいらっしゃいます。

この記事では、高次脳機能障害の特性を踏まえ、就労を目指すための強力なサポーターとなる「就労移行支援」に焦点を当てます。特に、静岡県浜松市で利用できる専門的な支援機関や、就労を成功させるための具体的なステップについて、詳しく解説していきます。自分らしい働き方を見つけるための一歩を、ここから踏み出してみませんか。

高次脳機能障害とは?「見えない障害」がもたらす就労の壁

就労について考える前に、まずは高次脳機能障害そのものへの理解を深めることが重要です。障害の特性を知ることは、適切なサポートを受け、自分に合った働き方を見つけるための第一歩となります。

高次脳機能障害の主な原因と症状

高次脳機能障害は、脳卒中(脳梗塞、脳出血など)や交通事故による脳外傷、脳腫瘍、低酸素脳症など、様々な原因で脳が損傷を受けることによって引き起こされます。これにより、記憶、注意、思考、言語といった高度な精神機能に障害が生じます。

行政的な定義では、高次脳機能障害の主な症状として、①記憶障害、②注意障害、③遂行機能障害、④社会的行動障害の4つが挙げられます。これらは単独で現れることもあれば、複数重なって現れることもあり、症状の出方は一人ひとり異なります。

  • 記憶障害:新しい出来事を覚えられない、約束や物の置き場所を忘れる。
  • 注意障害:集中力が続かない、ぼんやりしてしまう、複数のことを同時に行うと混乱する。
  • 遂行機能障害:計画を立てて物事を実行できない、段取りが悪くなる、効率的に行動できない。
  • 社会的行動障害:感情のコントロールが難しい(怒りっぽくなる)、自己中心的になる、場の空気が読めない。

これらの症状は外見から分かりにくいため、周囲から「やる気がない」「わざとやっている」と誤解されやすいという側面も持っています。

なぜ仕事で困難が生じるのか?

高次脳機能障害の症状は、職業生活に直接的な影響を及ぼします。例えば、以下のような困難が生じることがあります。

  • 指示の忘却:上司からの指示をすぐに忘れてしまい、何度も聞き返す必要がある。
  • ミスの多発:注意が散漫になり、作業中にケアレスミスが増える。
  • 業務の非効率:仕事の段取りが立てられず、何から手をつけていいか分からなくなる。
  • 人間関係の悪化:相手の意図を汲み取れなかったり、感情的に反応してしまったりして、同僚との関係がうまくいかなくなる。
  • 疲労感:集中するために多くのエネルギーを消耗し、以前より格段に疲れやすくなる。

こうした困難から、以前と同じように働くことが難しくなり、休職や離職に至るケースは少なくありません。しかし、適切な支援を受けることで、これらの課題を乗り越え、安定して働き続けることは十分に可能です。

就労移行支援とは?社会復帰への第一歩

高次脳機能障害のある方が就労を目指す上で、非常に重要な役割を果たすのが「就労移行支援」という福祉サービスです。一人で悩まず、専門機関のサポートを活用することが、社会復帰への確実な道筋となります。

就労移行支援の目的とサービス内容

就労移行支援は、障害者総合支援法に基づき、一般企業への就職を目指す65歳未満の障害のある方を対象としたサービスです。利用者は事業所に通いながら、就職に必要な知識やスキルを身につけ、就職活動のサポートを受けることができます。標準的な利用期間は2年間です。

提供される支援は多岐にわたり、個々の状況や目標に合わせてオーダーメイドの支援計画が立てられます。

高次脳機能障害のある方にとっては、自分の障害特性を客観的に理解し、それに対処する方法(代償手段)を身につけることが特に重要です。就労移行支援では、専門スタッフと共にそのプロセスを進めることができます。

就労継続支援(A型・B型)との違い

就労に関する福祉サービスには、就労移行支援の他に「就労継続支援」があります。両者は目的が異なるため、自分に合ったサービスを選ぶことが大切です。

  • 就労移行支援:一般企業への就職を目指すための「訓練」が中心。雇用契約は結ばず、原則として賃金は発生しません。
  • 就労継続支援A型:現時点で一般企業での就労が難しい方が、事業所と「雇用契約」を結んで働く場。最低賃金が保障されます。
  • 就労継続支援B型:雇用契約を結ばずに、比較的簡単な作業を自分のペースで行う「活動」の場。作業に応じた「工賃」が支払われます。

まずは就労継続支援で働くリズムを整え、自信をつけてから就労移行支援にステップアップし、一般就労を目指すという道筋もあります。どのサービスが適切か分からない場合は、市町村の障害福祉担当窓口や相談支援事業所に相談してみましょう。

浜松市で高次脳機能障害に特化した就労移行支援を受ける

浜松市には、高次脳機能障害のある方の就労を支えるための支援体制が整っています。専門的な知識を持つ事業所や、関係機関のネットワークを活用することで、より効果的な支援を受けることが可能です。

浜松市の支援体制と相談窓口

浜松市では、医療・福祉・就労が連携し、途切れのない支援を目指す「高次脳機能障害地域支援ネットワークシステム」が構築されています。

どこに相談すればよいか分からない場合、まずは以下の窓口に連絡してみるのが良いでしょう。

  • 浜松市 障害保健福祉課・各区の社会福祉課:障害福祉サービス全体の相談や申請手続きの窓口です。
  • 静岡県高次脳機能障害支援拠点機関(西部圏域):専門的な相談支援を行っています。浜松市では「NPO法人えんしゅう生活支援net(ワークセンター大きな木内)」が担当しています。
  • ハローワーク(公共職業安定所):障害のある方向けの専門窓口があり、職業相談や求人紹介を行っています。

また、浜松市では定期的にリハビリテーション科の専門医などによる無料の「高次脳機能障害医療等相談会」も開催されており、専門家のアドバイスを受ける貴重な機会となっています。

浜松市内の主要な就労移行支援事業所

浜松市内には、高次脳機能障害のある方への支援実績が豊富な就労移行支援事業所が複数存在します。ここでは、その一部をご紹介します。

ワークセンター大きな木

高次脳機能障害のある方への就労移行支援を専門的に行っているNPO法人運営の事業所です。作業療法士や公認心理師、ジョブコーチなどの専門職が充実しており、神経心理検査などのアセスメントに基づいた個別のプログラムが特徴です。静岡県の西部圏域支援拠点機関も担っており、地域の支援ネットワークの中核的な存在です。

聖隷厚生園 ナルド工房

社会福祉法人聖隷福祉事業団が運営する事業所で、「就労移行支援」「就労継続支援B型」「就労定着支援」の3つのサービスを提供しています。就職後のアフターフォローとして、職場を訪問する訪問型ジョブコーチによる支援も行っており、長く働き続けるためのサポートが手厚いのが特徴です。

ポコ・ア・ポコ

医療法人社団澤記念会が運営し、神経科浜松病院と連携しています。就労移行支援(定員7名)と就労継続支援B型(定員25名)を一体的に提供しており、医療との連携を活かした支援が期待できます。クリーニング作業や不織布加工などの作業訓練も行っています。

LITALICOワークス

全国展開している大手の就労移行支援事業所で、浜松市内にも「浜松」「新浜松」「浜松市役所前」の3つのセンターがあります。豊富な就職実績と標準化されたプログラムが強みで、多くの就職事例をウェブサイトで公開しています。

事業所の選び方と見学のポイント

自分に合った事業所を見つけるためには、複数の事業所を比較検討することが重要です。見学や体験利用を積極的に活用し、以下のポイントを確認しましょう。

  • 支援プログラムの内容:高次脳機能障害の特性に配慮したプログラムがあるか。PCスキル、軽作業、コミュニケーション訓練など、自分が学びたい内容が含まれているか。
  • 専門スタッフの有無:作業療法士や心理士、ジョブコーチなど、高次脳機能障害に関する専門知識を持つスタッフがいるか。
  • 事業所の雰囲気:自分にとって通いやすい雰囲気か。他の利用者やスタッフとの相性も大切です。
  • 就職実績と定着率:どのような企業に就職しているか、就職後に長く働き続けられているか。具体的な実績を確認しましょう。
  • 医療機関との連携:体調管理や服薬について相談できる医療連携体制が整っているか。

まずは電話やウェブサイトから問い合わせて、相談会や見学会に参加してみることをお勧めします。

就労成功に向けた具体的なステップと企業の合理的配慮

就労は、ご本人と企業、そして支援機関が三位一体となって進める共同作業です。それぞれの立場でできること、求められることを理解し、協力体制を築くことが成功の鍵となります。

本人にできること:自己理解とスキルの習得

就労に向けて、ご本人が主体的に取り組むべきことも多くあります。支援機関のサポートを受けながら、以下の点に取り組むことが大切です。

  • 障害の自己理解(病識):自分の得意なこと、苦手なことを客観的に把握し、どのような場面で困難が生じるかを理解します。心理検査や作業評価を通じて、支援者と一緒に自己分析を深めます。
  • 代償手段の活用:記憶障害にはメモやスマートフォンのリマインダー機能、注意障害には作業環境の調整(静かな場所で作業する、一度に一つの作業に集中する)など、症状をカバーするための工夫を習慣化します。
  • 適切な伝え方の練習:自分の障害について、企業側に分かりやすく説明する練習をします。「〇〇が苦手ですが、△△という工夫をすればできます」のように、できないことだけでなく、対処法もセットで伝えることが重要です。

企業に求められる合理的配慮とは?

障害者雇用促進法では、企業に対して「合理的配慮」の提供が義務付けられています。これは、障害のある方が働く上での障壁を取り除くための、個別の調整や配慮のことです。高次脳機能障害のある方に対しては、以下のような配慮が有効です。

合理的配慮の内容は、障害の特性や職場の状況によって異なります。本人、企業、支援機関が話し合い、実現可能な配慮を一緒に見つけていくプロセスが重要です。

  • 指示の明確化・視覚化:口頭だけでなく、メモやメール、図や写真を用いたマニュアルで指示を出す。
  • タスクの分解:一度に多くの指示をせず、「一つ終わったら次」というように、作業を細かく区切って依頼する。
  • 環境調整:集中しやすいように、パーテーションで区切られた静かな席を用意する。
  • 業務量の調整と休憩:疲れやすい特性に配慮し、業務量を調整したり、こまめに休憩を取ることを許可する。
  • 定期的な面談:上司が定期的に面談の機会を設け、困っていることや体調について話し合える場を作る。
  • ジョブコーチの活用:専門的な支援員であるジョブコーチが職場を訪問し、本人への支援と企業への助言を行う。

企業側も、就労支援機関と連携することで、障害特性への理解を深め、適切な配慮を行うことができます。

ご家族と支援者の皆様へ:一人で抱え込まないために

高次脳機能障害は、ご本人だけでなく、支えるご家族にも大きな影響を与えます。ご家族が心身ともに健康でいることが、ご本人の安定した生活と就労にも繋がります。

家族が直面する課題とストレス

ご家族は、ご本人の症状の変化への戸惑いや、将来への不安、介護による身体的・精神的・経済的な負担など、様々なストレスを抱えがちです。 外見から障害が分かりにくいため、周囲の無理解に傷つくこともあるでしょう。ご家族だけで問題を抱え込まず、外部のサポートを積極的に利用することが非常に重要です。

利用できる支援制度と相談先

ご家族の負担を軽減し、ご本人を支えるための様々な制度や相談先があります。

  • 家族会:同じ悩みを持つ家族同士が集まり、情報交換や悩みの共有ができる場です。浜松市にも「高次脳機能障害友の会(脳外傷友の会)西部地区」などの活動があります。 孤立感を和らげ、有益な情報を得る貴重な機会となります。
  • 相談支援事業所・地域包括支援センター:福祉サービス全般に関する相談ができます。介護保険や障害福祉サービスの利用計画作成なども手伝ってくれます。
  • 障害年金:障害によって就労が困難になり、経済的な不安がある場合、障害年金を受給できる可能性があります。経済的な基盤を安定させることは、安心して治療やリハビリに専念するために重要です。
  • 医療機関:かかりつけの医師や医療ソーシャルワーカーも、身近な相談相手です。医療的な側面だけでなく、利用できる社会資源についても情報を提供してくれます。

一人で、あるいは家族だけで悩まず、これらの社会資源を積極的に活用してください。

まとめ:専門家の力を借りて、自分らしい働き方を見つける

高次脳機能障害と共に働き続けることは、決して簡単な道のりではありません。しかし、障害の特性を正しく理解し、適切なサポートを受けることで、道は必ず開けます。

特に就労移行支援は、ご本人が自分のペースで就労準備を進め、自信を取り戻すための強力なパートナーです。浜松市には、「ワークセンター大きな木」をはじめとする専門的なノウハウを持つ事業所が複数あり、医療や行政と連携した手厚い支援体制が整っています。

重要なのは、一人で抱え込まないことです。ご本人、ご家族、そして支援機関がチームとなり、それぞれの役割を果たすことで、就労という目標はぐっと近づきます。まずは一歩を踏み出し、身近な相談窓口や就労移行支援事業所に連絡を取ってみることから始めてみましょう。

この記事が、高次脳機能障害のある方とそのご家族にとって、希望の光となり、自分らしい働き方を見つけるための一助となれば幸いです。

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