就労移行支援、家族が読んでおきたいことのすべて | 浜松市版ガイド

ご家族が社会に出て自立した生活を送ることは、多くのご家族にとって共通の願いです。しかし、障がいや難病を抱えるご本人にとって、就職への道は決して平坦ではありません。「働きたい」という気持ちはあっても、一歩を踏み出すことに不安を感じているかもしれません。そんな時、力強い味方となるのが「就労移行支援」という福祉サービスです。

この記事は、浜松市でご家族の就職について考えている方々に向けて、就労移行支援の利用を後押しする前に知っておくべき全てを解説します。サービスの基本から、ご家族が抱きがちな不安、そして浜松市で最適な事業所を見つけるための具体的なステップまで、専門的な情報を分かりやすくまとめました。ご本人の「働きたい」という想いを、確かな未来へと繋げるために、まずはご家族がこの制度を深く理解することから始めましょう。

そもそも「就労移行支援」とは?ご家族が押さえるべき基本

就労移行支援は、障害者総合支援法に基づき、障がいのある方が一般企業への就職を目指すための「訓練」と「支援」を行う福祉サービスです。単に仕事を紹介するだけでなく、働くために必要なスキルを身につけ、自分に合った職場を見つけ、就職後も長く働き続けられるようにサポートすることを目的としています。

サービスの目的:一般就労への「橋渡し」

就労移行支援の最大の特徴は、一般企業への就職(一般就労)をゴールとしている点です。事業所と雇用契約を結んで働く「就労継続支援(A型・B型)」とは異なり、就労移行支援は訓練の場であるため、原則として賃金や工賃は発生しません。その代わり、ビジネスマナー、PCスキル、コミュニケーション能力といった、企業で働く上で不可欠な知識と能力を体系的に学ぶことができます。いわば、学校から社会へ、あるいは療養生活から仕事へとスムーズに移行するための「橋渡し」の役割を担うサービスです。

就労移行支援は、一般就労を希望する人に、必要な知識・能力の向上のために必要な訓練を提供します。一方で、就労継続支援は、一般就労することに難しさを感じている人に、就労の機会や生産活動の機会等を提供します。

対象となる方:誰が利用できるのか?

就労移行支援は、以下の条件を満たす方が対象となります。

  • 年齢:原則として18歳以上65歳未満の方。
  • 障がい・疾病:身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、または国が定める難病のある方。
  • 意欲:一般企業への就職を希望しており、就労が可能と見込まれる方。

重要な点として、障害者手帳の所持は必須ではありません。医師の診断書や意見書があれば、自治体の判断によって利用が認められる場合があります。また、現在休職中の方も、自治体の判断により利用できるケースがありますので、まずは相談してみることが大切です。

支援内容:スキル習得から職場定着まで

支援内容は事業所によって多様ですが、主に以下の4つの柱で構成されています。ご本人の希望や特性に合わせて、個別の支援計画が作成されます。

  1. 職業訓練:PCスキル(Word, Excel)、プログラミング、デザイン、軽作業、ビジネスマナー、ストレスコントロール、コミュニケーション訓練など、就職に必要なスキルを学びます。
  2. 職場探し・就職活動サポート:自己分析を通じて適職を探し、履歴書・職務経歴書の添削、模擬面接、企業見学や職場実習の機会提供など、就職活動を全面的にバックアップします。
  3. 個別相談・計画作成:支援スタッフとの定期的な面談を通じて、悩みや課題を共有し、目標達成に向けた個別支援計画を見直していきます。
  4. 就職後の定着支援:就職後も安心して働き続けられるよう、定期的な面談や、職場とご本人の間の調整役を担います。この支援は、就職後6ヶ月間行われます。(詳細は後述ので解説します)

ご家族が抱える不安と疑問に答えます

ご家族にとって、就労移行支援の利用は期待とともに多くの不安が伴うものです。ここでは、よくある疑問や心配事について、一つひとつ丁寧にお答えします。

「利用中、生活費はどうするの?」経済的な不安

最も大きな懸念の一つが経済的な問題です。前述の通り、就労移行支援は訓練の場であるため、原則として賃金や工賃は支払われません。また、利用期間中は訓練に集中するため、アルバイトも原則として認められない場合が多いです。そのため、利用を開始する前に、生活費の見通しを立てておくことが不可欠です。

利用中の収入源としては、以下のような制度が考えられます。ご本人がどの制度を利用できるか、事前に確認しておきましょう。

  • 障害年金:受給資格がある場合は、安定した収入源となります。
  • 失業保険(雇用保険の基本手当):離職前の条件を満たしていれば、受給できる可能性があります。
  • 傷病手当金:健康保険の被保険者が病気やケガで働けなくなった場合に支給されます。
  • 生活福祉資金貸付制度:市区町村の社会福祉協議会が窓口となり、低金利または無利子で生活資金の貸付を行っています。
  • ご家族からの援助:ご家族がサポートすることも選択肢の一つです。その際は、ご本人の自立に向けた前向きな投資として、期間や範囲を話し合っておくと良いでしょう。

経済的な不安については、利用を検討している事業所や市区町村の窓口、障害者就業・生活支援センターなどの専門機関に相談することも可能です。

「本当に効果があるの?」メリットと注意点

就労移行支援の利用が、ご本人にとって本当にプラスになるのか、見極めたいと思うのは当然のことです。メリットと注意点の両方を理解しておきましょう。

メリット:

  • 専門的なサポート:福祉と雇用の専門家から、個別の特性に合わせた客観的なアドバイスや支援を受けられます。
  • 自己理解が深まる:様々な訓練や他者との交流を通じて、自分の得意・不得意を理解し、ストレスへの対処法を学べます。
  • 生活リズムの安定:定期的に通所することで、働くための基本的な生活習慣が身につきます。
  • 仲間との出会い:同じ目標を持つ仲間と出会い、悩みを共有し、励まし合うことができます。
  • 高い職場定着率:就職後の定着支援により、多くの利用者が安定して働き続けています。

注意点:

  • 利用期間の制限:原則として2年間という期限があります。焦りを感じる可能性も考慮が必要です。
  • 収入の空白期間:前述の通り、利用期間中は収入が途絶える可能性があります。
  • 事業所との相性:支援内容や事業所の雰囲気、スタッフとの相性が合わないと、通い続けることがストレスになる場合があります。

最大の効果を得るためには、ご本人に合った事業所を慎重に選ぶことが何よりも重要です。「どこでも同じ」ではなく、複数の事業所を比較検討するプロセスが不可欠です。

「利用料金はかかる?」費用負担の仕組み

就労移行支援は福祉サービスのため、利用料金の9割は国と自治体が負担し、自己負担は1割となります。さらに、世帯の収入状況に応じて自己負担上限月額が定められており、それを超える費用はかかりません。

実際には、利用者の約9割が自己負担0円(無料)で利用しています。費用負担は、ご本人とその配偶者の前年の所得によって決まります。親や兄弟の収入は含まれません。

この表が示すように、多くの方が経済的な負担なくサービスを利用できる仕組みになっています。ただし、交通費や昼食代は原則自己負担となるため、その点は考慮が必要です(事業所によっては補助がある場合もあります)。

浜松市で最適な事業所を見つけるための家族の役割

ご本人にとって最良の選択をするためには、ご家族のサポートが大きな力になります。ここでは、浜松市で事業所を探し、利用を開始するまでの具体的な流れと、ご家族が果たすべき役割を解説します。

ステップ1:情報収集と相談

まずは、どのような選択肢があるかを知ることから始めます。浜松市には多様な特徴を持つ就労移行支援事業所が存在します。

  • 市の窓口に相談:お住まいの区の福祉事業所(社会福祉課)が最初の相談窓口になります。制度の概要や市内の事業所リストを提供してくれます。
  • インターネットで検索:のようなポータルサイトでは、浜松市内の事業所を、支援内容や対象障害、場所などの条件で絞り込んで検索でき、非常に便利です。
  • 支援機関に聞く:かかりつけの医療機関や、相談支援事業所など、既に関わりのある専門家から情報を得るのも良い方法です。

ステップ2:見学と体験利用の重要性

情報収集である程度候補が絞れたら、必ず見学や体験利用を行いましょう。ウェブサイトやパンフレットだけでは分からない、事業所の「生きた情報」に触れることが、ミスマッチを防ぐ最大の鍵です。

見学は1時間程度で、プログラムの説明や施設内の案内が中心です。ご家族もぜひ同行してください。一人では不安なご本人にとって心強いだけでなく、ご家族自身の目で確かめることで、安心して任せられるか判断できます。

【見学・体験で確認したいポイント】

  • 雰囲気:事業所全体の明るさ、清潔感、利用者の表情はどうか。
  • 支援員:スタッフの専門性、人柄、利用者への接し方は丁寧か。
  • プログラム:ご本人の興味や目標に合っているか。具体的なカリキュラム内容を確認する。
  • 就職実績:どのような企業・職種への就職実績があるか。定着率はどのくらいか。
  • 通いやすさ:自宅からのアクセス、交通費はどうか。

複数の事業所を比較することで、それぞれの強みや違いが明確になり、ご本人に最も合った場所を選ぶことができます。

ステップ3:利用申請手続きの流れ

利用したい事業所が決まったら、正式な利用手続きに進みます。手続きは少し複雑に感じるかもしれませんが、事業所のスタッフや市の担当者がサポートしてくれます。

  1. 事業所との面談:利用したい事業所と面談し、利用の意思を伝えます。
  2. サービス等利用計画案の作成:相談支援事業所に依頼し、どのような支援が必要かをまとめた「計画案」を作成してもらいます。
  3. 自治体への申請:お住まいの区の社会福祉課に、サービス等利用計画案と申請書を提出します。
  4. 認定調査・受給者証の交付:市の職員による聞き取り調査などを経て、サービスの利用が認められると「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。
  5. 利用契約・利用開始:受給者証が届いたら、事業所と正式に利用契約を結び、利用開始となります。

このプロセスには1ヶ月〜2ヶ月程度かかる場合があるため、早めに動き出すことが推奨されます。

浜松市で利用できる就労移行支援リソース

浜松市には、就労を目指す障がいのある方を支えるための様々なリソースが整備されています。これらを活用することで、よりスムーズに支援へと繋がることができます。

浜松市の相談窓口と支援機関

事業所探しと並行して、以下の公的機関にも相談することをお勧めします。客観的な立場から、ご本人に合った支援を一緒に考えてくれます。

  • 浜松市 障害保健福祉課・各区社会福祉課:制度に関する公式な情報提供や、手続きの窓口となります。
  • 浜松市 ジョブサポートセンター:市の生活支援とハローワークの職業紹介を一体的に行い、個々の状況に応じた就労支援を提供します。
  • しずおか障害者就労支援ネットワーク:ジョブコーチの養成や派遣を行うNPO法人。浜松にも拠点があり、専門的な支援を提供しています。

また、浜松市では定期的に「障がいのある方のための就労相談会」が開催されており、市内の事業所や支援機関、障がい者雇用に積極的な企業と直接話せる貴重な機会となっています。

浜松市内の主要な就労移行支援事業所の特徴

浜松市内には、それぞれに強みを持つ就労移行支援事業所が多数あります。ここでは代表的なタイプをいくつかご紹介します。事業所選びの参考にしてください。

  • 大手で実績豊富な事業所:全国展開している事業所は、豊富なノウハウと標準化された質の高いプログラムが魅力です。就職実績も多く、安心して任せられます。(例:LITALICOワークス, ウェルビー)
  • ITスキル特化型事業所:プログラミングやWebデザインなど、専門的なITスキルの習得に特化しています。在宅ワークや専門職を目指す方に適しています。(例:ランプ浜松)
  • 地域密着・個別対応が強みの事業所:地元の企業との繋がりが強く、一人ひとりの特性に合わせた柔軟なプログラムを提供しています。アットホームな雰囲気を好む方におすすめです。(例:アクセスジョブ, 多機能型事業所ひだまりのみち)

これらの事業所は、それぞれ対象とする障害特性や得意な支援領域が異なります。必ず見学や体験を通じて、ご本人との相性を確かめることが重要です。

就職後も続くサポート「就労定着支援」とは

「就職できても、職場でうまくやっていけるだろうか…」という不安は、ご本人だけでなくご家族にとっても大きいものです。就労移行支援の価値は、就職後のサポートが手厚い点にもあります。

就労移行支援などを利用して就職した場合、まず就職後6ヶ月間は、利用していた事業所が職場訪問や面談などの「職場定着支援」を行います。これは就労移行支援サービスの一環です。

さらに、その後のサポートとして「就労定着支援」という別の福祉サービスがあります。これは、就職後7ヶ月目から利用できるもので、最長で3年間、専門の支援員がサポートを継続します。

就労定着支援では、利用者ご本人へのご支援はもちろん、就職先の人事担当者や上司、同僚の方々のお話も伺い、双方がはたらきやすい職場環境へと整えます。

支援内容は、月1回以上の面談を通じて生活や仕事の悩みをヒアリングし、必要に応じて企業側との調整を行うなど、ご本人が職場で孤立しないよう支えるものです。この「就職して終わりじゃない」という継続的な関わりが、長期的な就労と自立に繋がるのです。

家族としてできること:見守りと連携

ご家族のサポートは、ご本人が安心して就労移行支援を利用し、就職活動に臨む上で非常に重要です。しかし、その関わり方には少し注意が必要です。良かれと思った言動が、かえってプレッシャーになることもあります。

  • 本人の意思を尊重する:就職はご本人の人生です。「こうなってほしい」という家族の期待を押し付けるのではなく、本人がどうしたいのか、何を目指したいのかを第一に考え、その選択を応援する姿勢が大切です。
  • 「見守る」姿勢を忘れない:過度に手助けするのではなく、本人が自分でできることは信じて任せましょう。失敗も成長の糧になります。必要な時にだけ手を差し伸べる、という距離感が理想です。
  • 事業所と連携する:定期的に事業所の支援員とコミュニケーションを取り、ご家庭での様子を共有したり、支援の方向性について相談したりすることで、家庭と事業所が一体となったサポートが可能になります。
  • 結果ではなくプロセスを認める:すぐに結果が出なくても、通所を続けていること、新しいスキルを学ぼうとしていること自体を認め、励ましの言葉をかけましょう。

まとめ:未来への一歩を、家族みんなで支えるために

就労移行支援は、障がいや難病のある方が社会で自分らしく輝くための、非常に有効な制度です。しかし、その成功はご本人の努力だけでなく、ご家族の深い理解と適切なサポート、そして信頼できる事業所との出会いがあってこそ成り立ちます。

この記事を通じて、ご家族が抱える不安が少しでも解消され、前向きな一歩を踏み出すための情報が得られたなら幸いです。大切なのは、一人で抱え込まないこと。浜松市には、あなたとご家族を支える多くの専門家とリソースがあります。

まずは、ご本人と一緒に、気になる事業所の見学に足を運んでみませんか?そこから、新しい未来が始まるかもしれません。

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