「仕事で他の人よりミスが多い気がする」「会議中に集中力が続かず、話が頭に入ってこない」「タスクの優先順位付けが苦手で、いつも納期に追われてしまう」——。このような悩みを抱え、職場でつらい思いをしていませんか?
もし、努力や気合だけでは解決できないと感じているなら、それはあなたの性格や能力の問題ではなく、大人の発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)の特性が関係しているのかもしれません。
この記事では、ADHDの特性がなぜ仕事上の困難につながるのかを解説し、その悩みを克服するための具体的な解決策として、浜松市で利用できる「就労移行支援」という公的なサポートサービスについて詳しくご紹介します。一人で抱え込まず、専門家の力を借りて「自分らしく働ける道」を見つけるための一歩を踏み出しましょう。
なぜ?ADHDで「仕事のミス」や「集中力不足」が起こる理由
ADHDは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによるもので、決して本人の怠慢や努力不足が原因ではありません。その特性を理解することが、対策の第一歩となります。
不注意・多動性・衝動性:ADHDの3つの主な特性
ADHDの主な特性は「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分けられ、これらの特性が仕事のさまざまな場面で困難さを生み出します。
- 不注意:集中力が持続しにくい、注意が散漫になりやすい、忘れ物や紛失物が多い、ケアレスミスをしやすいといった形で現れます。重要な指示を聞き逃したり、書類の細かな点を見落としたりする原因となります。
- 多動性:じっとしているのが苦手で、そわそわと体を動かしたり、貧乏ゆすりをしたりします。大人になると内的な落ち着きのなさとして感じられることも多く、一つの作業に静かに取り組むことが難しくなります。
- 衝動性:思いついたことをよく考えずに発言・行動してしまう、相手の話を遮って話し始める、順番を待てないといった傾向があります。これにより、職場の人間関係で意図せず摩擦を生んでしまうこともあります。
これらの特性は、特に女性の場合、内面的な不注意として現れることが多く、周囲から気づかれにくいため、本人が一人で悩み、自己肯定感を下げてしまうケースも少なくありません。研究によれば、女性は多動性よりも不注意の症状が強く出やすく、不安や自尊心の低下に繋がりやすいと指摘されています。
「実行機能」の課題が仕事の困難に直結する
ADHDの困難さの背景には、実行機能(Executive Function)と呼ばれる脳の働きが関係していると考えられています。実行機能とは、目標達成のために思考や行動を管理・制御する高次の認知機能のことで、具体的には以下のような働きを指します。
- 計画と整理:タスクを順序立てて計画し、情報を整理する能力。
- 時間管理:時間の感覚を持ち、締め切りに合わせて作業を進める能力。
- ワーキングメモリ:作業に必要な情報を一時的に記憶し、処理する能力。
- 感情のコントロール:衝動的な感情を抑え、適切に行動する能力。
ADHDのある人は、この実行機能に課題を抱えやすいため、計画性のない仕事の進め方や、マルチタスクへの対応の難しさ、感情的な反応といった形で困難さが現れます。こうした日々の挑戦が積み重なることで、慢性的なストレスや燃え尽き症候群(ジョブ・バーンアウト)につながるリスクも高まることが研究で示唆されています。
あなただけじゃない。大人の発達障害と仕事の現状
もしあなたが「自分だけがうまくできない」と感じているなら、それは誤解です。ADHDを含む発達障害の特性を持ちながら、社会で働く多くの人々が同様の課題に直面しています。そして、社会全体でその活躍を後押しする動きが広がっています。
日本の厚生労働省の調査に基づく推計では、約91,000人の発達障害のある方が企業などで雇用されています。そのうち、正社員として働いているのは36.6%で、半数以上が無期契約で雇用されているというデータもあります。これは、適切な環境とサポートがあれば、多くの人が安定して働き続けられることを示しています。
一方で、企業側も発達障害のある方の雇用に課題を感じているのも事実です。ある調査では、発達障害者を雇用する企業の約7割が「課題がある」と回答しています。これは、障害特性への理解不足や、どのような配慮をすれば良いのか分からないといった現場の戸惑いを反映しています。
しかし、これは逆に言えば、自分の特性を正しく理解し、必要な配慮を具体的に伝えることができれば、企業とのミスマッチを防ぎ、自分らしく能力を発揮できる可能性が高まるということです。こうした「自己理解」と「企業との橋渡し」を専門的にサポートしてくれるのが、次に紹介する「就労移行支援」なのです。
独りで悩まないで。浜松市で利用できる「就労移行支援」とは?
仕事の悩みを一人で解決しようとする必要はありません。浜松市には、あなたの「働きたい」という気持ちを専門的な知識とプログラムで支える「就労移行支援」という心強い味方がいます。
就労移行支援の基本:あなたを支える公的福祉サービス
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づき、障害のある方が一般企業へ就職し、働き続けることをサポートする公的な福祉サービスです。国や自治体が認可した事業所が、専門的な支援を提供します。
- 対象者:一般企業への就職を目指す、原則18歳以上65歳未満の障害や難病のある方。ADHDなどの発達障害も対象です。障害者手帳がなくても、医師の診断書や自治体の判断で利用できる場合があります。
- 利用期間:原則として最長2年間です。この期間で、就職準備から就職活動、そして就職後の定着までをサポートします。
- 利用料金:前年の世帯所得に応じて自己負担額が定められていますが、約9割以上の方が自己負担0円で利用しています。多くの場合、無料で専門的なサポートを受けることができます。
具体的にどんなサポートが受けられるの?
就労移行支援事業所では、一人ひとりの特性や目標に合わせて、オーダーメイドの支援計画を作成します。ADHDの特性を持つ方が抱えやすい課題に対応した、以下のような多様なプログラムが用意されています。
就労移行支援の目的は、単に仕事のスキルを教えるだけではありません。その人が持つ発達障害の特性が職場でどう現れるかを理解し、自己理解を深め、具体的な問題解決能力を身につける拠点となることです。
- 自己理解とストレスコントロール:専門スタッフとの面談やグループワークを通じて、自分の得意・不得意を客観的に把握します。感情のコントロール方法や、ストレスへの対処法(SST:ソーシャルスキルトレーニングなど)を学び、安定して働くための土台を築きます。
- ビジネススキル・PCスキル向上:ビジネスマナー、報告・連絡・相談の基本から、WordやExcelなどのPCスキルまで、仕事で必要となる実践的な能力を基礎から学べます。資格取得を支援するプログラムを持つ事業所も多くあります。
- 就職活動の全面サポート:自分の特性に合った職種や業界を一緒に探します。強みをアピールできる履歴書・職務経歴書の作成支援や、模擬面接を繰り返し行うことで、自信を持って本番に臨めるようサポートします。
- 企業インターン(職場実習):実際に企業で働く体験を通じて、仕事への適性や必要な配慮を確認できます。「自分に合う職場環境」を事前に知ることができる、非常に価値のある機会です。
- 就職後の定着支援:就職はゴールではありません。働き始めた後も、定期的な面談を通じて職場での悩みや不安を相談できます。必要に応じてスタッフが企業との間に入り、業務内容の調整や環境改善を働きかけてくれるため、安心して長く働き続けることができます。
浜松市のおすすめ就労移行支援事業所
浜松市内には、それぞれ特色のある就労移行支援事業所が複数存在します。ここでは代表的な事業所をいくつかご紹介します。自分に合った事業所を見つけるために、まずは見学や相談に行ってみるのがおすすめです。
LITALICOワークス:業界最大手ならではの豊富な実績とノウハウ
全国に120以上の事業所を展開する業界最大手の就労移行支援事業所です。長年の支援で培われた豊富なノウハウと、200種類以上にも及ぶ独自のプログラムが強みです。企業インターン先も豊富で、多様な職種を体験できる可能性があります。浜松市内にも複数の拠点があり、アクセスしやすいのも魅力です。
- 特徴:豊富なプログラム、全国規模の就職実績、充実した定着支援
- 浜松市内の拠点:LITALICOワークス浜松(浜松駅徒歩5分)、新浜松(浜松駅徒歩4分)など
- 対象:精神障害、発達障害、身体障害、知的障害、難病など
アクセスジョブ:一人ひとりに合わせたオーダーメイドの支援
「完全個別支援制」を掲げ、利用者一人ひとりの状況や目標に合わせたオーダーメイドの支援計画を特徴としています。500種類以上のプログラムから自分に合った訓練を選べるほか、在宅訓練にも対応しており、柔軟な通所が可能です。特にPCスキルや資格取得に力を入れています。
- 特徴:個別支援、豊富なプログラム(500種以上)、在宅訓練対応、高い定着率(90%以上)
- 浜松市内の拠点:アクセスジョブ浜松駅前(新浜松駅徒歩1分)、アクセスジョブ浜松田町
- 対象:精神障害、発達障害、身体障害、知的障害、難病など
特化型で専門性を高める選択肢も
浜松市には、特定の分野に特化した事業所もあります。
- 就労移行ITスクール浜松:プログラミングやWebデザインなど、ITスキルに特化した支援を提供。IT業界への就職を目指す方におすすめです。
- ウェルビー浜松駅前センター:発達障害や精神障害のある方の特性理解に基づいた独自のカリキュラムに強みを持ちます。
これらの事業所は、いずれも浜松駅周辺にあり通いやすい立地です。それぞれの強みや雰囲気を比較し、自分に最も合いそうな場所を見つけることが大切です。
就労移行支援を利用する最初の一歩
「自分も利用できるかも」と思ったら、まずは行動してみましょう。利用開始までの流れは、あなたが思うよりずっとシンプルです。
- 事業所を探して問い合わせる:まずはこのサイトのようなポータルサイトや各事業所のホームページを見て、気になる事業所を探します。電話やメールで気軽に問い合わせてみましょう。
- 見学・相談・体験利用をする:実際に事業所を訪問し、雰囲気を確認したり、スタッフに相談したりします。多くの事業所では、プログラムの無料体験も可能です。「利用が前提でなくてもOK」なので、まずは話を聞きに行くだけでも大丈夫です。
- 利用申請手続き:利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で「障害福祉サービス受給者証」の申請を行います。申請手続きは複雑に感じるかもしれませんが、事業所のスタッフが丁寧にサポートしてくれるので安心です。
- 利用開始:受給者証が交付されたら、事業所と契約を結び、いよいよ支援のスタートです。専門スタッフと一緒に作成した個別支援計画に沿って、自分のペースで訓練を進めていきます。
浜松市では、市の障害福祉課や障害者就労支援センター「ふらっと」などでも相談が可能です。どこに相談すればよいか分からない場合も、まずは一歩踏み出してみることが重要です。
まとめ:あなたの「働きやすさ」は、専門家のサポートで見つかる
仕事での度重なるミスや集中力の問題は、あなたの能力や意欲が低いからではありません。ADHDという脳の特性によるものである可能性が高く、それは正しい知識と適切な工夫、そして専門的なサポートによって乗り越えることができます。
独りで悩み、自信を失い続ける必要はありません。浜松市には、あなたの強みを引き出し、弱みをカバーする方法を一緒に考え、あなたに合った働き方を見つける手助けをしてくれる就労移行支援事業所という頼れるパートナーがいます。
適切な環境とサポートがあれば、ADHDの特性は、時にユニークな発想力や高い集中力といった強みにもなり得ます。あなたの可能性を最大限に活かすために、まずは就労移行支援事業所への相談から始めてみませんか?それが、あなたが「自分らしく、安心して働ける未来」への最も確かな一歩となるはずです。
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