障害者雇用で就職した後、「もっとスキルを磨きたい」「責任ある仕事に挑戦したい」と考えるのは、キャリアを築く上で自然なステップです。しかし、実際には評価や昇進の機会に恵まれず、悩みを抱える方も少なくありません。この記事では、浜松市で障害者雇用として働きながらキャリアアップを目指すための具体的な方法を、公的支援、スキル習得、企業の取り組みといった多角的な視点から徹底解説します。
浜松市における障害者雇用の現状とキャリアの課題
キャリアアップを考える前に、まずは浜松市における障害者雇用の現状と、多くの当事者が直面する課題を理解することが重要です。
浜松市の雇用率の動向と課題
浜松市では、障害者の積極的な雇用が進められていますが、実雇用率は法定雇用率に届かない状況が続いています。市の公式計画によると、近年の実雇用率は横ばいで推移しており、特に令和5年、6年(見込み)は法定雇用率が未達成となるなど、依然として課題が残っています。
一方で、静岡県全体で見ると、雇用される障害者の数は12年連続で過去最高を更新しており、特に精神障害者の雇用が大きく伸びています。これは、多様な障害のある方が活躍できる場が広がりつつあることを示唆しています。
キャリアアップの壁:「見えない格差」の実態
障害者雇用は「採用がゴール」ではなく、入社後のキャリア形成が重要です。しかし、多くの当事者が「見えない壁」に直面しています。ある調査では、障害者の管理職比率は約5%に留まっているというデータもあります。
「会社にいてくれるだけでいいと言われ、雑務のような仕事ばかりやらされる」「与えられる仕事に対して成果を出していても、健常者ほど評価されない」「自分だけ昇給・昇格の制度から外れている」
このような評価や機会の不均衡は、働く意欲の低下や離職につながる大きな要因です。厚生労働省の調査でも、離職理由として「賃金・労働条件への不満」、改善が必要な事項として「能力に応じた評価、昇進・昇格」が上位に挙げられています。キャリアアップを目指すには、こうした構造的な課題を認識し、主体的に行動を起こす必要があります。
スキルアップの第一歩:就労移行支援の活用法
キャリアの土台を築く上で、非常に有効なのが「就労移行支援」です。これは、一般企業への就職を目指す障害のある方(原則18歳~64歳)を対象とした福祉サービスで、就職準備から職場定着までを一貫してサポートします。
就労移行支援とは?キャリア形成の土台作り
就労移行支援事業所では、最長2年間の利用期間の中で、以下のような多岐にわたる支援を受けられます。
- 職業訓練:PCスキル(Word, Excel)、ビジネスマナー、コミュニケーション、軽作業など、仕事に必要な実践的スキルを習得します。
- 自己分析と職業適性の把握:専門の支援員との面談やプログラムを通じて、自身の強みや課題、適した働き方を理解します。
- 就職活動サポート:履歴書の添削や模擬面接、求人情報の提供、企業見学や職場実習(インターン)の機会提供など、就職活動を全面的にバックアップします。
- 職場定着支援:就職後も最長3年半、支援員が定期的に面談を行い、職場での悩みや課題解決をサポートします。これにより、安心して働き続けることができます。
浜松市で利用できる就労移行支援事業所
浜松市内には、特色ある多くの就労移行支援事業所が存在します。駅からのアクセスが良い事業所や、特定のスキル(IT、デザインなど)に特化したプログラムを持つ事業所など様々です。以下に代表的な事業所をいくつか紹介します。
- LITALICOワークス(浜松、新浜松、浜松市役所前):全国展開する大手で、豊富なプログラムと就職実績が強み。JR浜松駅から徒歩圏内に複数の事業所があります。
- アクセスジョブ(浜松駅前、浜松田町):「完全個別支援制」を掲げ、一人ひとりのペースに合わせた支援を提供しています。
- ディーキャリア(浜松オフィス):発達障害の特性に配慮したプログラムに強みを持ちます。
- 医療法人社団至空会(多機能型事業所ひだまりのみち):医療法人が運営母体であり、医療との連携がスムーズです。
その他にも多くの事業所があります。浜松市の公式サイトや専門のポータルサイトで一覧を確認できます。
自分に合った事業所の選び方【5つのポイント】
数ある事業所の中から最適な場所を見つけるためには、以下の5つのポイントをチェックすることが重要です。必ず複数の事業所を見学・体験し、比較検討しましょう。
- プログラム内容:自分が学びたいスキル(PC、専門技術、コミュニケーション等)を学べるか。資格取得を支援してくれるかも確認しましょう。
- 事業所の雰囲気と支援員との相性:支援員に気軽に相談できるか、他の利用者と馴染めそうかなど、自分に合う環境かを見極めます。
- 就職実績:希望する職種や業界への就職実績があるか。企業のインターン先は豊富か。具体的な実績データを開示してもらいましょう。
- 通いやすさ:自宅からのアクセスは良いか。無理なく通い続けられる場所にあることは、訓練を継続する上で非常に重要です。
- 障害への対応:自分の障害特性を理解し、配慮してくれる体制が整っているか。特に精神障害や発達障害の方は、専門的な知識を持つスタッフがいるかを確認しましょう。
具体的なスキルアップとキャリアデザイン
就労移行支援などで基礎を固めたら、次はより具体的なキャリアパスを描き、必要なスキルを戦略的に身につけていく段階です。
職種別キャリアパスと推奨スキル
障害者雇用で多い職種別に、キャリアアップの道筋と役立つスキルを紹介します。
- 事務職:一般事務から、経理(日商簿記)、人事、貿易事務(貿易実務検定)など専門性を高めるのが王道です。MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)資格は基礎スキルとして有効です。
- 製造・技能職:現場での経験を積みながら、CAD利用技術者試験、機械保全技能士、危険物取扱者などの国家資格を取得すると仕事の幅が広がります。リーダーや管理職を目指すには、工程改善や品質管理の知識も求められます。
- ITエンジニア:プログラミング言語の習得はもちろん、実務経験を積み、プロジェクトマネージャーやITスペシャリスト、データサイエンティストなどを目指せます。需要が高く、専門性を高めることで大幅なキャリアアップが期待できる分野です。
重要なのは、まず体調を安定させることです。焦ってスキルアップを目指すのではなく、自分のペースで着実に経験を積むことが、長期的なキャリア形成につながります。
「キャリアデザイン」と「キャリアプランニング」の実践
主体的にキャリアを築くためには、2つの考え方が役立ちます。
- キャリアデザイン:「将来どんな仕事をしたいか」「どう活躍したいか」という理想の姿を描くことです。自分の価値観や興味、強みを深く理解することから始まります。
- キャリアプランニング:キャリアデザインで描いた理想を実現するための具体的な行動計画です。「3年後に経理の専門職になるために、まず簿記2級を取得し、次に実務経験を積む」といったように、目標達成までの道のりを明確にします。
これらを一人で考えるのが難しい場合は、次のキャリアカウンセリングを活用しましょう。
専門家によるキャリアカウンセリングの活用
キャリアコンサルタントは、キャリア形成の専門家です。就労移行支援事業所やハローワークに在籍しており、以下のような支援を提供してくれます。
- 自己理解の深化:客観的な視点から、自分では気づかなかった強みや可能性を引き出してくれます。
- 目標設定の支援:キャリアデザインを基に、現実的で達成可能なキャリアプランの作成を手伝います。
- 情報提供と助言:求人市場の動向や必要なスキル、資格に関する情報を提供し、具体的な行動を後押しします。
キャリアコンサルティングは、障害のある方が自分らしいキャリアを築く上で、羅針盤のような役割を果たします。積極的に相談し、専門的な知見を活用しましょう。
企業の取り組みと国の支援制度を活かす
個人の努力だけでなく、企業や行政の支援制度をうまく活用することもキャリアアップの鍵です。特に、国や浜松市が提供する助成金や支援事業は、知っているかどうかで大きな差が生まれます。
国のキャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)
これは、障害のある有期雇用労働者を正規雇用(正社員)または無期雇用に転換した事業主に対して支給される助成金です。この制度は、働く側にとっても正社員への道を拓く強力な後押しとなります。
- 支給額(中小企業の場合):
- 有期 → 正規雇用:120万円(重度身体・知的障害者、精神障害者)
- 有期 → 無期雇用:60万円(同上)
- ポイント:この助成金の活用を企業に提案することで、自身の正社員化を交渉しやすくなる場合があります。制度を利用するためには、事業主が「キャリアアップ計画」を作成し、労働局に提出する必要があります。
2025年度(令和7年度)には制度の変更も行われているため、最新の情報を厚生労働省や静岡労働局のウェブサイトで確認することが重要です。
浜松市の独自支援と優良企業の事例
浜松市や静岡県も、独自の支援策や優良企業の表彰を通じて障害者雇用を推進しています。
- 浜松市の支援事業:市は介護職員の資格取得費用を助成する「介護職員キャリアアップ支援事業」などを実施しており、特定の分野でのキャリア形成を後押ししています。また、ハローワークと連携し、企業向けの障害者雇用支援セミナーを開催するなど、雇用機会の創出に努めています。
- 優良企業の事例(京丸園株式会社):浜松市に本社を置く農業法人「京丸園」は、障害者雇用優良事業所として厚生労働大臣表彰を受賞しています。「農福連携」を推進し、障害のある従業員が能力を発揮できる作業工程の細分化や、自社開発の機械導入など、誰にとっても働きやすい環境を構築しています。このような先進的な企業は、キャリアアップを目指す上での理想的な職場環境の参考になります。
静岡県では、障害者雇用に優れた取り組みを行う事業所を毎年表彰しており、これらの企業は障害のある社員のキャリア形成にも積極的である可能性が高いです。県のウェブサイトなどで公表される優良事業所リストは、転職活動の際の有力な情報源となります。
まとめ:自分らしいキャリアを浜松で築くために
障害者雇用におけるキャリアアップは、決して簡単な道ではありません。しかし、浜松市にはあなたの挑戦を支える多くのリソースが存在します。重要なのは、受け身にならず、主体的に未来を描き、行動を起こすことです。
この記事で紹介したポイントを、ぜひあなたのキャリアプランに役立ててください。
- 現状を理解し、目標を立てる:まずは自分の置かれた状況を客観的に把握し、どんなキャリアを歩みたいか具体的に考えましょう。
- 支援機関を徹底的に活用する:就労移行支援事業所やハローワーク、キャリアコンサルタントは、あなたの強力な味方です。一人で抱え込まず、専門家の力を借りましょう。
- 戦略的にスキルを磨く:目指すキャリアパスに必要なスキルや資格を計画的に習得し、自身の市場価値を高めましょう。
- 制度を知識として武器にする:キャリアアップ助成金などの制度を知っていることは、企業との交渉や転職活動において有利に働きます。
浜松市という地域社会の中で、あなたが自分らしく輝き、満足のいく職業人生を歩んでいけるよう、この記事がその一助となれば幸いです。
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