「働きたいけれど、何から始めればいいかわからない」「自分に合った仕事を見つけたい」——。障害や難病を抱えながら、就職に向けて一歩を踏み出そうとしている浜松市在住のあなたへ。この記事では、国が定める「就労移行支援」という福祉サービスについて、制度の基本から浜松市での具体的な利用方法まで、総合的に解説します。
自分らしい働き方を見つけ、社会で活躍するための第一歩を、ここから始めてみませんか。
就労移行支援とは?国の制度を基礎から理解する
就労移行支援は、漠然とした「働きたい」という思いを、具体的な「就職」へとつなげるための公的なサポート制度です。まずは、その基本的な仕組みを正しく理解しましょう。
障害者総合支援法に基づく「就労移行支援」の定義と目的
就労移行支援は、「障害者総合支援法」という法律に基づいて提供される障害福祉サービスの一つです。その目的は、一般企業への就職を希望し、かつ就労が可能と見込まれる65歳未満の障害のある方に対して、一定期間、就労に必要な知識や能力を高めるための訓練を提供することにあります。
具体的には、個々の希望や適性に合わせて作成された支援計画に基づき、職業訓練や就職活動のサポート、職場探しなどを支援します。これは単なる職業紹介ではなく、利用者が自立して働き続けるためのスキルと自信を育むことを目指すものです。
他の就労系サービスとの違い(継続支援A型・B型、定着支援)
障害のある方向けの就労支援には、就労移行支援の他にもいくつかの種類があります。それぞれの違いを理解し、自分に最も適したサービスを選ぶことが重要です。
- 就労継続支援A型:一般企業での就労が困難な方が、事業者と雇用契約を結び、給料を得ながら働くサービスです。比較的、支援を受けながら安定して働きたい方向けです。
- 就労継続支援B型:年齢や体力などの理由で雇用契約を結んで働くことが難しい方が、雇用契約を結ばずに、生産活動を行いながら工賃(賃金ではない)を得るサービスです。自分のペースで働きたい方向けです。
- 就労定着支援:就労移行支援などを利用して一般企業に就職した方が、長く働き続けられるように、就職後の悩み相談や職場との調整などを行うサービスです。就職後のサポートに特化しています。
就労移行支援は、これらの中でも特に「一般企業への就職」をゴールとしている点で大きな特徴があります。
【2025年10月開始】新たな「就労選択支援」とは?
2025年10月から、障害者総合支援法の改正により「就労選択支援」という新しいサービスが始まります。これは、就労移行支援や継続支援A型・B型といった就労系サービスを新たに利用しようとする方が、原則として利用前に受けることになるサービスです。
就労選択支援では、短期間の作業体験やアセスメント(評価・分析)を通じて、本人の就労に関する希望や能力、必要な配慮などを整理します。これにより、利用者が自分に最適なサービスをミスマッチなく選択できるようになることが期待されています。ハローワークもこのアセスメント結果を参考に職業指導を行うなど、より個人に寄り添った支援体制が構築されます。
なぜ今、就労移行支援が注目されるのか?社会的な背景とデータ
近年、企業における障害者雇用への関心が高まり、それに伴い就労移行支援の重要性も増しています。その背景には、法制度の変更と社会全体の意識の変化があります。
高まる障害者雇用へのニーズ:法定雇用率の引き上げ
企業には、全従業員数に対して一定割合以上の障害者を雇用することが法律で義務付けられています。これを「障害者法定雇用率」と呼びます。
この法定雇用率は、社会情勢を反映して段階的に引き上げられており、2024年4月には民間企業で2.3%から2.5%に、さらに2026年7月までには2.7%になることが決まっています。
この引き上げにより、企業側の採用意欲は高まっており、専門的な訓練を受けた人材を求める声が強くなっています。就労移行支援は、こうした企業のニーズと、働きたい障害のある方とを繋ぐ重要な役割を担っているのです。
データで見る障害者雇用の進展
国の調査によると、民間企業に雇用されている障害者の数は年々増加しており、着実な進展が見られます。厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」では、雇用されている障害者数は推計110.7万人にのぼり、5年前の前回調査(平成30年度)から約25.6万人増加しました。
特に精神障害者や発達障害者の増加が著しく、多様な特性を持つ人々が社会で活躍する機会が広がっていることがわかります。この傾向は、今後も続くと予想されます。
このグラフが示すように、すべての障害種別で雇用者数は増加しています。これは、企業が多様な人材の活躍に期待を寄せている証拠であり、就労移行支援を通じて適切なスキルを身につけることの価値が一層高まっていることを意味します。
浜松市で就労移行支援を利用する具体的な流れ
それでは、実際に浜松市で就労移行支援を利用したい場合、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。基本的な流れを4つのステップで解説します。
ステップ1:情報収集と相談
まずは、どのような支援があるのかを知ることから始めます。相談窓口はいくつかあります。
- お住まいの区の福祉事業所(社会福祉課):公的なサービスの利用に関する最初の相談窓口です。浜松市では各区役所・行政センター内に設置されています。
- 浜松市障害者就労支援センター「ふらっと」:浜松市から委託を受け、仕事に関する専門的な相談に応じています。
- 各就労移行支援事業所:インターネットなどで市内の事業所を探し、直接問い合わせることも可能です。多くの事業所が無料の相談会や説明会を実施しています。
ステップ2:事業所の見学・体験
興味のある事業所が見つかったら、必ず見学や体験利用をしましょう。事業所によって雰囲気、プログラム内容、スタッフとの相性は大きく異なります。複数の事業所を比較検討し、自分が安心して通え、目標達成できそうな場所を選ぶことが成功の鍵です。
見学時には、以下のような点を確認すると良いでしょう。
- プログラムの内容は自分の興味や目標に合っているか
- 事業所の雰囲気や他の利用者の様子はどうか
- スタッフは親身に相談に乗ってくれそうか
- 就職実績や、どのような企業への就職が多いか
- 交通の便や通いやすさ
ステップ3:利用申請と「障害福祉サービス受給者証」の取得
利用したい事業所が決まったら、お住まいの区の福祉事業所(社会福祉課)の窓口でサービスの利用申請を行います。この際、「サービス等利用計画案」の提出が必要になります。これは、どのような目標で、どのようなサービスを利用したいかをまとめた計画書で、通常は指定特定相談支援事業者が作成をサポートします。
申請後、市による聞き取り調査(アセスメント)などを経て、サービスの利用が適切と判断されると「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。この受給者証が、正式にサービスを利用するための許可証となります。
ステップ4:利用契約と支援開始
受給者証が交付されたら、利用を決めた事業所と正式に利用契約を結びます。契約内容や重要事項について説明を受け、納得した上で契約しましょう。契約後、個別の支援計画が作成され、いよいよ就職に向けたトレーニングがスタートします。
浜松市の就労移行支援事業所:選び方のポイントと代表的な事業所
浜松市内には、特色の異なる複数の就労移行支援事業所が存在します。自分に最適な場所を見つけるためのポイントと、市内の代表的な事業所を紹介します。
自分に合った事業所を選ぶための5つのポイント
- プログラムの専門性:PCスキル、プログラミング、デザイン、事務、軽作業など、事業所ごとに得意な分野があります。自分の目指す職種に合った訓練が受けられるかを確認しましょう。
- 障害特性への理解と配慮:発達障害、精神障害など、特定の障害へのサポートに強みを持つ事業所もあります。自分の障害特性に合った配慮や支援が期待できるかも重要です。
- 就職実績と定着支援:希望する業界への就職実績が豊富か、また就職後も長く働き続けるための「就労定着支援」が充実しているかを確認しましょう。浜松市では、就労移行支援からの一般就労移行率5割以上を目標の一つに掲げています。
- 事業所の雰囲気と通いやすさ:スタッフや他の利用者との相性、事業所の清潔感や設備、自宅からのアクセスなども、継続して通う上で大切な要素です。
- 企業との連携:インターンシップ(職場実習)先が豊富か、地域の企業とどのようなネットワークを持っているかも、就職の選択肢を広げる上で参考になります。
浜松市内の代表的な就労移行支援事業所
浜松市内には、全国展開する大手から地域に根差した事業所まで、様々な選択肢があります。以下に代表的な事業所をいくつか紹介します。(2025年7月時点の情報)
事業所名 | 所在地(中央区) | 特徴 |
---|---|---|
LITALICOワークス 浜松 | 浜松市中央区旭町 | 全国No.1の累計就職者数。豊富なプログラムと4,500社以上のインターン先が強み。就職後も最長3年半の定着支援。 |
ウェルビー 浜松駅前センター | 浜松市中央区旭町 | オフィスを再現した環境で実践的な訓練が可能。PC訓練やビジネスマナー講座などが充実。浜松駅からのアクセスも良好。 |
ディーキャリア 浜松オフィス | 浜松市中央区 | 発達障害の特性による働きづらさに特化したプログラムを提供。「やりがいを見つけるためのカリキュラム」が特徴。 |
多機能型事業所だんだん | 浜松市中央区 | 医療法人社団至空会が運営。精神障害・発達障害を対象とし、体調管理やコミュニケーション、職場定着まで一貫した支援を提供。 |
※上記は一例です。浜松市が公開している障害福祉サービス等事業所一覧には、より多くの事業所が掲載されています。
浜松市の公的な支援とイベント
浜松市では、独自の就労支援策も展開しています。例えば、重度の障害がある方の通勤や職場での介助を支援する「浜松市重度障害者等就労支援特別事業」などがあります。
また、毎年「ともにはたらくフェア」といったイベントを開催しており、市内の障害福祉サービス事業所や障害者雇用に積極的な企業と直接話せる機会を提供しています。こうした場を活用して、情報収集や相談をするのも有効です。
よくある質問(FAQ)
就労移行支援の利用を検討する際によく寄せられる質問についてお答えします。
Q1. 費用はかかりますか?
就労移行支援は福祉サービスのため、費用の9割は国と自治体が負担します。利用者の自己負担は原則1割ですが、前年の世帯収入(本人と配偶者)に応じて月ごとの上限額が定められています。実際には、利用者の約9割が自己負担0円で利用しています。
- 生活保護受給世帯・市町村民税非課税世帯:0円
- 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満):9,300円/月
- 上記以外:37,200円/月
Q2. 障害者手帳がなくても利用できますか?
障害者手帳をお持ちでない方でも、利用できる場合があります。 医師の診断書や意見書などにより、自治体が「就労に困難が認められる」と判断すれば、サービスの対象となることがあります。まずは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、利用を検討している事業所に相談してみてください。
Q3. 利用期間はどのくらいですか?
利用できる期間は、原則として最長2年間(24ヶ月)です。この期間内に、生活リズムの安定、職業スキルの習得、就職活動、職場定着までを目指します。多くの方は、6ヶ月から1年半ほどで就職しています。利用期間については、個々の状況に応じて支援計画が立てられます。
Q4. どんな訓練が受けられますか?
訓練内容は事業所によって様々ですが、一般的に以下のようなプログラムが提供されています。
- PCスキル:Word、Excel、PowerPointなどの基本的な使い方から、専門的なソフトウェアまで。
- ビジネスマナー:挨拶、電話応対、名刺交換、報告・連絡・相談など、社会人としての基礎。
- コミュニケーション:グループワークなどを通じて、職場での円滑な人間関係を築くスキルを学びます。
- ストレスコントロール:自分のストレスの傾向を理解し、セルフケアの方法を身につけます。
- 就職活動対策:自己分析、履歴書・職務経歴書の添削、模擬面接など。
まとめ:自分らしい「働く」を見つけるために
就労移行支援は、国が法律で定め、浜松市が地域の実情に合わせて提供している、あなたの「働きたい」を力強くサポートする制度です。社会的な雇用のニーズが高まる今、専門的な支援を受けながら就職を目指すことは、非常に有効な選択肢と言えるでしょう。
大切なのは、一人で抱え込まず、まずは相談してみること。そして、自分に合った支援の形を見つけることです。この記事が、あなたが浜松市で自分らしい働き方を見つけるための、確かな一歩となることを心から願っています。
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