障害や難病を抱えながら「一般企業で働きたい」と願う方にとって、就労移行支援は心強い味方となる制度です。しかし、いざ利用を考えたとき、「どのくらいの期間、どんなサポートを受けられるの?」「自分に合った事業所はどう探せばいい?」といった疑問が浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、就労移行支援の利用期間が原則2年間である点を中心に、その期間内で受けられる具体的なサポート内容を4つのステップで詳しく解説します。さらに、静岡県浜松市にお住まいの方が自分に最適な事業所を見つけられるよう、市内の具体的な事業所事例や選び方のポイントもご紹介します。あなたの「働きたい」という想いを実現するための一歩として、ぜひ参考にしてください。
就労移行支援とは?基本を解説
まずは、就労移行支援がどのような制度なのか、基本的な部分から理解を深めましょう。
障害者総合支援法に基づく福祉サービス
就労移行支援とは、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスの一つです。障害や難病のある方が一般企業への就職を目指すにあたり、必要な知識やスキルを習得するためのトレーニング、就職活動のサポート、そして就職後の職場定着支援までを総合的に提供します。単に仕事を見つけるだけでなく、利用者が自分らしく、安定して働き続けることを最終的な目標としています。
就労移行支援の真の意義は、単に就職を実現することだけではありません。それは、障害をお持ちの方々が自分の可能性を発見し、社会の中で自分らしく生きていくための力を養う場所なのです。
対象者と利用条件
就労移行支援は、以下の条件を満たす方が対象となります。
- 年齢:18歳以上65歳未満の方
- 障害・疾病:身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、または国が定める難病のある方
- 意欲:一般企業への就職を希望しており、就労が見込まれる方
障害者手帳の有無は必須ではありません。医師の診断書や意見書があれば、自治体の判断によって利用が認められる場合があります。また、現在休職中の方も、復職を目指すために利用できるケースがあります。
就労継続支援との違い
就労移行支援とよく似たサービスに「就労継続支援(A型・B型)」があります。両者の最も大きな違いは、その目的にあります。
- 就労移行支援:一般企業への就職を目指すための「訓練」が目的。利用期間に定めがある。
- 就労継続支援:一般企業での就労が困難な方に「働く場」を提供することが目的。利用期間の定めがない。
どちらのサービスが適しているかは個々の状況によって異なるため、まずは自分の目標を明確にすることが大切です。
就労移行支援の利用期間「原則2年間」のルール
就労移行支援の最も重要な特徴の一つが、利用期間です。ここでは、そのルールについて詳しく見ていきましょう。
就労移行支援を利用できる期間は原則2年間(24ヶ月)です。この2年間の中で、就職するためのスキルを身につけたり、自分に合った仕事や職場を見つけていきます。
この2年間という期間は、利用者が焦らず、自分のペースで着実にステップアップしていくために設定されています。生活リズムの構築から始まり、スキル習得、自己理解、就職活動、そして職場定着まで、一貫したサポートを受けるための十分な時間と言えるでしょう。
利用期間の延長や再利用は可能?
「2年で就職できなかったらどうしよう」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、状況に応じて柔軟な対応が可能です。
- 期間の延長:自治体が必要性を認めた場合、最長で1年間の延長が認められることがあります。
- 期間の再利用:一度就職したものの離職してしまった場合など、2年間の利用期間が残っていれば、その残りの期間を再度利用することができます。
- 期間のリセット:一定の条件を満たし、自治体の審査を通過すれば、利用期間がリセットされ、新たに2年間の利用が可能になる場合もあります。
これらの制度があるため、一度の失敗を恐れずに挑戦することができます。困ったときは、事業所のスタッフや自治体の窓口に相談することが重要です。
就職後のサポート期間:最長3年半の定着支援
就労移行支援のサポートは、就職したら終わりではありません。むしろ、安定して働き続けるための「就職後」の支援が非常に重要です。
就職後、最初の6ヶ月間は、利用していた就労移行支援事業所が引き続き面談などでサポートを行います。その後は、「就労定着支援」という別の福祉サービスに切り替えることで、最長3年間のサポートを受けることができます。
つまり、就職してから合計で最長3年6ヶ月もの長期間にわたり、仕事の悩みや生活面の課題について相談できる体制が整っているのです。この手厚い定着支援が、高い職場定着率につながっています。
2年間で何をする?就職までの4ステップと支援内容
では、原則2年間の利用期間で、具体的にどのような支援を受けられるのでしょうか。一般的に、就職までの道のりは以下の4つのステップで進められます。事業所は、利用者一人ひとりの状況に合わせて個別の支援計画を作成し、サポートします。
ステップ1:就労に向けたトレーニング
最初の段階では、安定して働くための土台作りを行います。生活リズムを整えながら、仕事に必要な基礎的なスキルを学びます。
- 生活リズムの安定:決まった時間に事業所に通うことで、規則正しい生活習慣を身につけます。週1日や短時間からのスタートも可能です。
- 自己理解(自己分析):自分の障害特性、得意なこと・苦手なことを理解し、適切な対処法(セルフケア)を学びます。
- ビジネスマナー:挨拶、報告・連絡・相談、電話応対など、社会人としての基本的なマナーを習得します。
- PCスキル:Word、Excel、PowerPointなど、事務職で求められる基本的なPC操作を学びます。
- コミュニケーションスキル:SST(社会生活技能訓練)などを通じて、職場での円滑な人間関係を築くための対人スキルを養います。
ステップ2:職場見学・企業実習
ある程度のスキルが身につき、通所が安定してきたら、実際の企業での仕事を体験する段階に進みます。これを企業実習(インターンシップ)と呼びます。
- 適性の把握:興味のある業界や職種の仕事を実際に体験することで、自分に合っているかどうかを確認します。
- 実践的なスキルアップ:訓練で学んだスキルを、実際の業務で活かす経験を積みます。
- 働くことへの自信:「自分も働ける」という成功体験を得ることで、就職活動へのモチベーションが高まります。
実習先は事務職、軽作業、販売、IT関連など多岐にわたり、事業所が企業と連携して実習の場を確保してくれます。
ステップ3:就職活動のサポート
いよいよ本格的な就職活動のスタートです。一人で進めるのが不安な就職活動も、事業所のスタッフが二人三脚でサポートしてくれます。
- 求人探し:ハローワークの障害者求人や、事業所が独自に開拓した求人情報などから、希望に合った企業を探します。
- 応募書類の作成:履歴書や職務経歴書の書き方を学び、自己PRや志望動機をスタッフと一緒に考え、添削してもらいます。
- 面接対策:模擬面接を繰り返し行い、受け答えの練習をします。自分の障害について企業にどう説明するか(障害者手帳の開示・非開示を含む)といったデリケートな問題も相談できます。
- 面接同行:希望すれば、スタッフが面接に同行してくれる場合もあります。
ステップ4:就職後の職場定着支援
内定・就職はゴールではなく、新たなスタートです。前述の通り、就職後もサポートは続きます。
- 定期的な面談:就職後もスタッフが定期的に面談(対面・電話・オンライン)を行い、仕事上の悩みや困りごとがないかを確認します。
- 企業との連携:利用者本人からは言いにくい配慮事項(業務量の調整、環境整備など)があれば、スタッフが企業との間に入って調整役を担ってくれます。
- 生活面のサポート:仕事とプライベートの両立や、体調管理に関するアドバイスも行い、長期的に安定して働けるよう支援します。
【浜松市の事例】自分に合った事業所の見つけ方
全国に数多くある就労移行支援事業所ですが、お住まいの地域でどのような選択肢があるのかを知ることが重要です。ここでは浜松市に焦点を当て、市の取り組みや具体的な事業所を紹介します。
浜松市の就労支援への取り組み
浜松市は、障害のある方の就労支援に積極的に取り組んでいます。市の計画では、福祉施設から一般就労への移行を推進する目標を掲げており、令和5年度には219人の移行を目指すなど、具体的な数値目標を設定しています。
また、毎年「ともにはたらくフェア」といったイベントを開催し、障害のある方と企業、福祉サービス事業所が出会う機会を創出しています。。さらに、重度の障害がある方向けに通勤や職場での支援を行う「浜松市重度障害者等就労支援特別事業」といった独自の制度も設けており、市全体で障害者雇用を後押しする体制が整っています。
浜松市にある就労移行支援事業所の特徴
浜松市内には、それぞれ特色のある就労移行支援事業所が複数存在します。ここでは代表的な事業所をいくつか紹介します。(2025年7月時点の情報)
事業所名 | 特徴 | 所在地(例) |
---|---|---|
LITALICOワークス (浜松, 新浜松, 浜松市役所前) |
業界最大手で全国に事業所を展開。豊富なプログラム(200種類以上)と企業インターンの実績が強み。安定した支援体制と高い就職・定着率を誇る。 | 浜松市中央区砂山町 |
アクセスジョブ (浜松駅前, 浜松田町) |
教育分野で実績のある(株)クラ・ゼミが運営。一人ひとりに合わせた個別支援を重視し、600を超えるプログラムから選択可能。在宅訓練にも対応。 | 浜松市中央区砂山町 |
ウェルビー (浜松駅前センター) |
発達障害や精神障害のある方への支援に特化。自己理解を深める独自のカリキュラムに定評があり、全国展開している大手事業所。 | 浜松市中央区旭町 |
ランプ浜松 | プログラミングやWebデザインなどITスキル習得に特化。卒業生の約4割がIT企業へ就職するなど、専門分野での就職実績が豊富。 | 浜松市中央区砂山町 |
※上記は一部の例です。各事業所の詳細や最新情報は、必ず公式サイトでご確認ください。
事業所選びで失敗しないための4つのポイント
自分に合った事業所を見つけることは、就職成功への第一歩です。見学や体験利用をする際には、以下の4つのポイントを確認しましょう。
- プログラム内容と専門性:自分が目指す職種(事務、IT、軽作業など)に必要なスキルを学べるカリキュラムがあるか。特定の障害特性に特化した支援を行っているかも重要なポイントです。
- 就職実績と定着率:希望する業界・職種への就職実績が豊富か、また就職後の定着率は高いかを確認しましょう。高い定着率は、手厚いサポートの証です。
- 事業所の雰囲気とスタッフとの相性:実際に足を運び、事業所の清潔感や他の利用者の様子、スタッフの対応などを肌で感じることが大切です。「ここなら安心して通えそう」と思える場所を選びましょう。
- 通いやすさとサポート体制:自宅からのアクセスは良いか、交通費や昼食代の補助制度はあるかといった物理的な条件も確認が必要です。
利用開始までの流れと費用について
実際に就労移行支援を利用したいと思ったら、どのような手続きが必要で、費用はどのくらいかかるのでしょうか。
相談から利用開始までの3ステップ
利用開始までの大まかな流れは以下の通りです。
- 相談・見学・体験:気になる事業所に問い合わせ、見学やプログラムの体験をします。ここで事業所の雰囲気や支援内容が自分に合うかを確認します。
- 受給者証の申請:利用したい事業所が決まったら、お住まいの市区町村の障害福祉窓口(浜松市の場合は各区役所の社会福祉課など)に「障害福祉サービス受給者証」の申請を行います。
- 利用契約:受給者証が交付されたら、事業所と正式に利用契約を結び、利用開始となります。
利用料金とその他の費用
就労移行支援の利用料金は、前年の世帯所得に応じて自己負担額の上限が定められています。多くの場合、自己負担なしで利用できます。
世帯の収入状況 | 月額負担上限額 |
---|---|
生活保護受給世帯 | 0円 |
市町村民税非課税世帯 | 0円 |
市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300円 |
上記以外 | 37,200円 |
ただし、事業所に通うための交通費や昼食代は原則自己負担となります。しかし、自治体によっては交通費の助成制度があったり、事業所が無料で昼食を提供したりする場合もあるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
まとめ:2年間の支援を活かして、自分らしい働き方を見つけよう
就労移行支援は、障害や難病を抱えながらも働きたいと願う方々にとって、一般企業への就職という目標を現実にするための強力なサポート制度です。原則2年間という期間の中で、生活リズムの安定から専門スキルの習得、そして就職活動、さらには就職後の定着まで、一貫した手厚い支援が受けられます。
特に浜松市では、市の積極的な取り組みに加え、大手から地域密着型、IT特化型まで、多様な特色を持つ事業所が存在し、選択肢が豊富です。重要なのは、資料を見るだけでなく、実際に事業所へ足を運び、自分の目で見て、スタッフと話をして、「自分に合う場所」を見つけることです。
この記事が、あなたの「働きたい」という気持ちを後押しし、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。まずは気になる事業所への問い合わせや見学から始めてみませんか。
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