障害のある人もない人も、互いに尊重し、支え合いながら暮らせる「共生社会」の実現は、現代日本の重要なテーマです。静岡県内においても、政令指定都市である静岡市と浜松市を中心に、行政、NPO、市民が一体となった多様な取り組みが進められています。
本記事では、静岡市における障害者支援の中核を担う「特定非営利活動法人 静岡市障害者協会」の活動に焦点を当てるとともに、ユニバーサルデザインや農福連携で先進的な事例を持つ浜松市の取り組みを比較・分析します。両市の特色あるアプローチから、これからの障害者福祉のあり方と、私たちが目指すべき共生社会の姿を探ります。
特定非営利活動法人 静岡市障害者協会とは?
特定非営利活動法人 静岡市障害者協会は、2005年9月に設立され、2011年7月にNPO法人格を取得した、静岡市の障害者福祉を推進する中心的な団体です。その最大の特徴は、身体・知的・精神という三障害の垣根を越え、さらには難病患者などの団体も包括する形で組織されている点にあります。これにより、個別の障害特性に対応しつつも、障害者全体が直面する共通の課題に対して、横断的かつ総合的なアプローチを可能にしています。
当法人は、障害者団体、障害者関連団体、障害者支援団体(中略)、障害者及び一般市民に対して、障害者の福祉の向上に寄与することを目的とする。
— 静岡市障害者協会 定款 第3条
協会は、当事者団体の連合体としての性格を持ち、会員間の連携促進、社会参加の推進、そして障害者福祉に関する啓発活動などを主な事業としています。静岡市からの委託事業も数多く手掛けており、行政と市民、そして当事者をつなぐ重要なハブとしての役割を担っています。
静岡市障害者協会の多岐にわたる活動
静岡市障害者協会の活動は、個別の相談対応から政策提言、さらには司法との連携まで、非常に多岐にわたります。ここでは、その活動の核心部分を3つの側面に分けて紹介します。
相談支援の最前線:基幹相談支援センターの役割
協会の最も重要な機能の一つが、静岡市から委託を受けて運営する「静岡市障害者相談支援推進センター(基幹相談支援センター)」です。ここは、障害のある人やその家族からのあらゆる相談に応じる総合窓口であり、地域の相談支援体制の中核を担っています。
平成31(令和元)年度の事業報告書によると、基幹相談支援センターには年間848件、障害者110番事業には360件もの相談が寄せられています。下のグラフは、基幹相談支援センターに寄せられた相談の障害種別内訳を示したものです。
グラフから、知的障害に関する相談が約半数を占め、次いで重複障害、精神障害と続いていることがわかります。これは、生活全般にわたる継続的な支援を必要とするケースが多いことを示唆しています。同センターは、こうした複雑で困難な事例に対して、関係機関と連携しながら専門的な支援を提供し、地域のセーフティネットの要となっています。
独自の取り組みと政策提言
静岡市障害者協会は、委託事業だけでなく、当事者団体の視点を活かした独自の事業も積極的に展開しています。
- 障害者プランの勉強会:市の障害者計画について継続的に学び、分析することで、より実効性のある施策を行政に提言しています。
- 防災事業委員会:災害時要支援者の避難計画や福祉避難所との連携など、障害者の視点からの防災対策を具体的に検討し、行政や地域防災組織に働きかけています。
- 差別解消・社会参加委員会:障害者差別解消法に基づき、差別事例の集約・分析や、公共交通機関のバリアフリー化などを推進しています。
- しずおかTIP-OFF奨学金:2023年度に創設された、篤志家の寄付を原資とする障害のある学生のための奨学金制度です。経済的な理由で学びを諦めることのないよう、向学心のある学生を支援しています。
これらの活動は、単なるサービスの受け手にとどまらず、障害当事者が主体的に地域課題の解決や制度設計に関わっていくという、協会の基本理念を体現しています。
司法と福祉の連携:触法障がい者支援という挑戦
特筆すべき活動として、触法障がい者(罪を犯した障害のある人)への支援が挙げられます。協会は、静岡地方検察庁の「社会復帰支援室」など司法機関と連携し、被疑者・被告人の段階から支援に関わる「入口支援」や、矯正施設退所後の地域生活定着を支える「出口支援」に取り組んでいます。
これは、再犯防止には懲罰だけでなく、福祉的なサポートによる生活基盤の安定が不可欠であるという考えに基づいています。司法・福祉・医療が連携して重層的な支援ネットワークを構築するこの取り組みは、全国的にも先進的なモデルとして注目されています。
浜松市の先進事例:ユニバーサルデザインと農福連携
一方、静岡県西部の中心都市である浜松市は、静岡市とはまた異なるアプローチで障害者福祉を推進しています。特に「ユニバーサルデザイン」と「農福連携」の分野で、特色ある取り組みが見られます。
「すべての市民」を目指すユニバーサルデザイン
浜松市は、全国に先駆けて2003年4月に「浜松市ユニバーサルデザイン条例」を施行しました。これは、障害者や高齢者といった特定の人々のための「バリアフリー」から一歩進み、年齢、性別、国籍、障害の有無にかかわらず、「すべての人が暮らしやすいまち」を目指す考え方です。
この理念に基づき、市は「U・優プラン(浜松市ユニバーサルデザイン計画)」を策定し、ハード・ソフト両面でのまちづくりを進めてきました。具体的には、床が低く乗り降りしやすい超低床ノンステップバスの導入や、誰でも見やすい案内表示、多言語対応などが挙げられます。このアプローチは、障害者支援を福祉分野に限定せず、都市計画や産業振興など、市政全体の課題として捉えている点に大きな特徴があります。
農福連携が生み出す新たな就労モデル
浜松市が特に力を入れているのが、農業と福祉が連携する「農福連携」です。これは、農業分野の人手不足という課題と、障害者の就労機会の確保という課題を同時に解決する試みであり、「ユニバーサル農業」とも呼ばれています。
市内には、スズキ株式会社の特例子会社「スズキ・サポート」や、独自の「ひなりモデル」で全国的に知られる「CTCひなり株式会社」など、農福連携に積極的に取り組む企業が存在します。これらの企業は、農家から作業を請け負い、障害のある社員がそれぞれの特性を活かして農作業に従事する仕組みを構築しています。
市やNPO法人、各種機関が連携して「浜松市ユニバーサル園芸研究会」のようなプラットフォームを形成し、就農訓練や企業と障害者のマッチングを支援しています。これにより、障害のある人にとって新たな働き方の選択肢が生まれ、地域経済の活性化にも貢献しています。
静岡市と浜松市から見る、障害者支援の現在地と未来
静岡市と浜松市の取り組みを比較すると、それぞれの都市が持つ強みと特色が浮かび上がります。
静岡市では、静岡市障害者協会という強力な当事者団体がハブとなり、三障害を横断する包括的な相談支援体制を構築しています。特に、困難事例や触法障害者支援といった、専門性が高く、きめ細やかな対応が求められる分野で強みを発揮しています。これは、「支援を必要とする個人に深く寄り添う」アプローチと言えるでしょう。
一方、浜松市は、ユニバーサルデザイン条例を軸に、「社会全体の仕組みを変える」ことで、誰もが暮らしやすい環境を創出しようとしています。農福連携のように、福祉を産業や経済と結びつけ、持続可能なモデルを構築する視点は非常に先進的です。
両市の取り組みは、どちらが優れているというものではなく、相互に補完し合う関係にあります。個別のニーズに応える専門的な支援と、社会全体のバリアを取り除く普遍的な環境整備は、共生社会を実現するための両輪と言えます。今後は、両市が互いの成功事例を学び合い、連携を深めていくことが、静岡県全体の障害者福祉の向上につながるでしょう。
まとめ:誰一人取り残さない社会の実現に向けて
静岡市障害者協会の地道で専門的な活動から、浜松市の包括的で先進的なまちづくりまで、両市の取り組みは、障害者福祉が直面する課題の多様性と、その解決に向けたアプローチの幅広さを示しています。
静岡市障害者協会が示すように、当事者の声に耳を傾け、一人ひとりの困難に寄り添う専門的な支援は、セーフティネットの根幹です。同時に、浜松市の事例が教えるように、障害の有無を前提としないユニバーサルな社会基盤を整備し、福祉を特別なものではなく、経済や産業と結びつけていく視点も不可欠です。
SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」社会の実現は、行政や専門団体だけの努力で成し遂げられるものではありません。私たち市民一人ひとりが、障害や障害のある人への理解を深め、身近なところから行動を起こすことが求められています。この記事が、その一助となれば幸いです。


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