序章:なぜ今、浜松市の障害者雇用が注目されるのか
「障害があっても、自分らしく、やりがいを持って働きたい」——。そう願う求職者と、「多様な人材を確保し、組織を成長させたい」——。そう考える企業。この二つの思いが交差する点として、今、浜松市の障害者雇用が大きな注目を集めている。本記事は、その両者のための羅針盤となることを目指すものである。
本記事の対象読者は、以下の通りだ。
- 障害があり、浜松市で「自分らしく働きたい」と願う求職者の方
- 人材不足の解消や組織の多様性推進を目指し、障害者雇用を検討している浜松市内の企業担当者の方
これらの方々に向けて、インターネット上に散在する断片的な情報ではなく、最新の公的データ、活用できる支援制度、そして具体的なアクションプランまでを網羅的かつ体系的に提供する。
浜松市を取り巻く背景には、いくつかの重要な変化がある。第一に、日本全体が直面する少子高齢化による労働力人口の減少だ。これは、これまで労働市場で十分に活用されてこなかった人材、すなわち障害のある方々の活躍に大きな期待が寄せられる要因となっている。第二に、法制度の強化である。障害者雇用促進法の改正により、民間企業の法定雇用率は2024年4月に2.5%、さらに2026年7月には2.7%へと段階的に引き上げられる。これにより、企業にとって障害者雇用は、単なる「法律で定められた義務」から、企業の持続的成長に不可欠な「経営戦略」へとその意味合いを大きく変えつつある。
このような大きな潮流の中で、本記事が提供する価値は三つある。
- 情報の体系化:求職者と企業の双方が「次に何をすべきか」を明確に理解できるよう、複雑な制度や支援策を論理的に整理し、実践的なロードマップとして提示する。
- データに基づく現状分析:公的な統計データを深く掘り下げ、浜松市および静岡県特有の雇用の機会と課題を浮き彫りにする。これにより、根拠に基づいた戦略立案を可能にする。
- 成功への道筋の提示:行政や支援機関のサポートを最大限に活用し、求職者にとっては納得のいく就職を、企業にとっては成功する雇用を実現するための具体的な方法論を提供する。
「ものづくりのまち」として多様な産業が集積し、行政も積極的に支援策を打ち出す浜松市は、障害者雇用において大きなポテンシャルを秘めている。この記事が、そのポテンシャルを現実のものとし、一人ひとりが、そして一社一社が、新たな一歩を踏み出すための確かな一助となることを願う。
【最重要】データで読み解く浜松市の障害者雇用の「今」と「未来」
求職者にとってはキャリア戦略を、企業にとっては採用戦略を立てる上で、地域全体の大きな流れを客観的に把握することは不可欠である。このセクションでは、厚生労働省や静岡労働局、浜松市が公表する最新のデータを基に、浜松市および静岡県の障害者雇用の現状を多角的に分析し、今後の動向を予測する。
静岡県・浜松市の雇用率:着実な進展と残された課題
まず、最も基本的な指標である雇用率から見ていこう。静岡県全体の障害者雇用は、着実に前進している。静岡労働局が令和6年(2024年)12月に公表したデータによると、県内の民間企業における障害者の実雇用率は2.43%となり、12年連続で過去最高を更新した。また、雇用されている障害者の総数も15,353.5人と、16年連続で増加しており、企業の採用意欲が着実に高まっていることがうかがえる。
しかし、この数字を手放しで喜ぶことはできない。下のグラフが示すように、実雇用率は、法改正によって引き上げられた法定雇用率にはまだ追いついていないのが実情だ。2024年4月から2.5%、さらに2026年7月からは2.7%へと引き上げられる法定雇用率を達成するためには、県内企業にはこれまで以上の努力が求められている。
この課題は、民間企業だけの話ではない。障害者雇用を率先して推進すべき公的機関においても、道半ばである。令和6年(2024年)6月時点のデータでは、浜松市長事務部局の実雇用率が2.48%(法定雇用率2.80%)、浜松市教育委員会が1.57%(法定雇用率2.70%)と、いずれも法定率を下回っている。これは、障害者雇用が一部の先進的な企業だけの取り組みではなく、浜松市全体で取り組むべき官民共通の重要課題であることを明確に示唆している。
雇用の構造変化:精神障害者の急増と「ものづくりのまち」の特色
次に、雇用の「質」的な変化に目を向けてみよう。近年の障害者雇用における最も顕著なトレンドは、精神障害者の雇用の急増である。静岡県内では、身体障害者(前年比0.6%増)や知的障害者(同2.4%増)の雇用が安定的に推移する一方、精神障害者の雇用は前年比で11.6%増と著しい伸びを示している。
この背景には、うつ病や発達障害など、多様な精神障害に対する社会的な理解が深まり、企業側がそれぞれの特性に応じた働き方や業務内容を整備し始めたことがあると考えられる。これは、障害者雇用が単なる人数の充足(量)から、個々の能力を活かす(質)のフェーズへと移行しつつあることを示す重要な兆候だ。
また、産業別の特徴として、「ものづくりのまち」浜松を象徴するように、静岡県では製造業が障害者雇用全体の約4割(39.3%)を占めている。スズキ、本田技研工業、ヤマハといった世界的なメーカーや、浜松ホトニクスのような先端技術企業、そしてそれらを支える数多くの中小企業が、事務職から技術職、製造ラインまで、多様な雇用の受け皿となっている。これは、浜松市で仕事を探す上で大きな強みと言えるだろう。
浜松市の羅針盤「第4次障がい者計画」が描く未来
こうした現状と課題を踏まえ、浜松市は今後の進むべき道筋を明確に示している。それが、令和6年度から令和11年度(2024-2029年度)を計画期間とする「第4次浜松市障がい者計画」である。この計画は、市の障害者施策に関する最上位の「設計図」であり、特に「雇用・就労」分野における市の強い意志が読み取れる。
計画では、「雇用・就労」が重要な柱として位置づけられ、主に2つの大きな方針が掲げられている。
- 就労支援と雇用促進:ハローワークや後述する障害者就業・生活支援センターといった専門機関との連携を強化し、一人ひとりの希望や適性に合った職場探しを後押しする。フルタイムだけでなく、短時間勤務など多様な働き方の選択肢を広げることも目指している。
- 就労支援施設等に対する支援:就労移行支援事業所や就労継続支援事業所(A型・B型)が、質の高いサービスを提供できるよう支援を強化し、施設全体のレベルアップを図る。これにより、利用者はより専門的で効果的なサポートを受けられるようになる。
中でも特筆すべきは、市が具体的な「成果目標」を設定した点だ。例えば、就労移行支援などを通じて福祉施設から一般就労へ移行する人の数を、令和3年度(2021年度)実績の144人から、令和8年度(2026年度)には189人に増やすという目標を立てている。これは、市が単なるスローガンではなく、具体的な数値を意識しながら、福祉施設での訓練から企業で働く「一般就労」へのステップアップを積極的に推進していくという強い決意の表れである。
【注目】2025年開始の新サービス「就労選択支援」とは?
「第4次障がい者計画」の中でも、求職者・企業・支援機関のすべてにとって大きな変化をもたらす可能性を秘めているのが、2025年10月から本格的に開始される新サービス「就労選択支援」である。
この制度の最大の目的は、「自分にどんな仕事が向いているかわからない」「どんな働き方ができるか知りたい」といった、就職活動の初期段階で多くの人が抱える悩みに対し、ミスマッチを防ぐための仕組みを提供することにある。具体的には、就労移行支援や就労継続支援といった本格的な福祉サービスを利用する「前段階」で、専門員が面談や短期間(標準1ヶ月程度)の作業体験を通じて、本人の能力や適性、必要な配慮などを客観的に評価(アセスメント)する。
就労選択支援は、利用者と支援サービスのミスマッチを防ぎ、より納得感のある選択を促すことにあります。短期間の作業体験などを通じて、「自分はどんな仕事に向いているのか」「どんなサポートが必要なのか」を明確にしてから本格的な訓練に進むことができます。
この新サービスの導入は、関係者に以下のような影響を与えると予測される。
- 求職者にとって:本格的な訓練に入る前に、自分の適性を客観的に知る機会が得られる。これにより、「とりあえず入ってみたけれど、合わなかった」という事態を防ぎ、自分に合った事業所や働き方をより慎重に、かつ確信を持って選べるようになる。
- 支援機関(就労移行支援事業所など)にとって:利用者の特性やニーズが事前に明確になるため、より個別化された質の高い支援計画を立てやすくなる。一方で、アセスメントの結果、自社のサービスが最適でないと判断される可能性もあり、事業所の専門性や特色をより明確に打ち出す必要性が高まる。
- 企業にとって:就労選択支援や就労移行支援を経た人材は、自己理解が深く、働くための準備が整っている可能性が高い。採用後のミスマッチや早期離職のリスクを低減し、より安定した雇用に繋がることが期待される。
2025年10月以降、新たに就労継続支援B型などを利用する場合は、原則としてこの就労選択支援の利用が求められる方針であり、障害者就労支援のあり方を大きく変えるゲームチェンジャーとなる可能性がある。この動向は、今後も注視していく必要があるだろう。
【求職者向け】一人で悩まない!浜松市の支援を活用し、自分らしい仕事を見つける完全ロードマップ
「働きたい」という気持ちはあっても、何から始めればいいか分からない。障害や病気のことをどう伝えればいいか不安。そんな悩みを一人で抱え込む必要はない。浜松市には、あなたの就職活動を力強くサポートしてくれる専門機関や制度が網の目のように整備されている。この章では、その支援を最大限に活用し、自分らしい仕事を見つけるための具体的なステップをロードマップ形式で解説する。
ステップ1:最初の相談窓口を知る【ナビゲーターを見つけよう】
広大な海へ船出する際に、まず信頼できる水先案内人(ナビゲーター)を探すように、就職活動の第一歩は、あなたの状況を理解し、進むべき道を照らしてくれる専門家を見つけることから始まる。
どこに相談すればいいか迷ったら:浜松市障害者就労支援センター「ふらっと」
「そもそも、どこに相談すればいいのか全く分からない」。もしあなたがそう感じているなら、迷わず浜松市障害者就労支援センター「ふらっと」に連絡してみよう。ここは浜松市が委託して運営している公的な総合相談窓口であり、あなたの就労に関するあらゆる悩みの「最初の扉」となる場所だ。
- 役割:「ふらっと」の役割は、直接仕事を紹介すること(職業斡旋)ではない。あなたの状況や希望を丁寧にヒアリングし、情報を整理し、次に紹介するハローワークや就労移行支援事業所など、あなたにとって最適な専門機関へ繋ぐ「ナビゲーター」の役割を担う。
- 特徴:最大の利点は、その敷居の低さにある。障害者手帳の有無にかかわらず、無料で相談できる。必要に応じて、ハローワークの登録や企業の面接に支援員が同行してくれることもある。
- アクション:まずは電話(053-589-3028)で相談予約をすることが、具体的な第一歩となる。
具体的な求人を探すなら:ハローワーク浜松「専門援助部門」
ある程度自分の方向性が見えてきたり、具体的な求人を探し始めたりする段階では、ハローワーク浜松の「専門援助部門」が中心的な役割を果たす。一般的な窓口とは異なり、障害に関する専門知識と豊富な支援経験を持つ相談員が、一人ひとりの状況に合わせたきめ細やかなサポートを提供してくれる。
- 役割:単なる求人紹介にとどまらない。個別カウンセリングによる就活プランの策定、履歴書や職務経歴書の作成支援、模擬面接、そして就職後の定着支援まで、就職活動のあらゆる段階を無料でサポートする。
- 特徴:一般には公開されていない障害者専用求人や、企業側が障害への配慮を前提としている求人情報が豊富に集まっている。これにより、ミスマッチの少ない、安心して応募できる企業を見つけやすい。
- アクション:ハローワークの総合受付で「障害者雇用の相談をしたい」と伝え、専門援助部門に案内してもらう。混雑を避けるため、事前に電話で予約することが推奨される。
ステップ2:スキルを磨き、自信をつける【就職のための学校を活用しよう】
「すぐに働くのは不安」「働くために必要なスキルを身につけたい」。そう考える人にとって、最強の味方となるのが「就労移行支援事業所」だ。いわば「就職のための学校」であり、あなたの社会復帰を力強く後押ししてくれる。
就労移行支援事業所とは?
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つである。一般企業への就職を目指す障害のある方を対象に、原則として最長2年間、就職に必要なスキル習得から就職活動、そして就職後の職場定着までをトータルでサポートする。
費用の心配はほとんどいらない。国の制度により、利用者の前年の所得に応じて負担上限月額が定められているが、厚生労働省のデータによれば、利用者の約9割が自己負担0円(無料)でサービスを利用している。18歳以上の場合は本人と配偶者の所得のみで判断されるため、親と同居していても無料で利用できるケースがほとんどだ。
さらに、浜松市には独自の「障害者施設通所支援事業」という心強い制度がある。これは、就労移行支援事業所などへ通う際のバスや電車の交通費の一部を助成するもので、年間で最大7,000円が支給される。経済的な負担を気にせず、訓練に集中できる環境が整えられている。
後悔しない!浜松市での事業所の選び方「5つのチェックリスト」
浜松市内には29箇所以上の就労移行支援事業所があり、それぞれに特色がある。しかし、その選択を誤ると、貴重な2年間を無駄にしかねない。ウェブ上の口コミだけに頼るのは危険だ。客観的かつ多角的に事業所を評価するための「5つのチェックリスト」を活用しよう。
- 「就職実績」と「定着率」を数字で確認する
これは最も客観的で重要な指標だ。見学や相談の際には、「過去1年間の就職者数」「就職先の業界・職種」「そして最も重要な就職後6ヶ月の定着率」を必ず具体的に質問しよう。定着率は、その事業所の支援の質、特に就職後のフォローの手厚さを測るバロメーターであり、80%以上が一つの目安となる。 - 「プログラム内容」と「専門性」を吟味する
あなたの「なりたい姿」から逆算し、必要なスキルが身につくかを見極める。事務職希望ならMOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)対策講座、専門職希望ならプログラミングやWebデザインの講座があるか。また、対人関係スキルを向上させるSST(ソーシャルスキルトレーニング)やストレスコントロールなど、社会人基礎力を養うプログラムの充実度も重要だ。 - 「支援スタイル」と「支援員の専門性」を見極める
自分のペースでじっくり進めたいなら「個別支援」中心の事業所、他の利用者と切磋琢磨したいなら「グループワーク」が豊富な事業所が向いている。また、精神保健福祉士やキャリアコンサルタントなどの有資格者が在籍しているか、IT特化型なら実務経験者がいるかなど、支援員の専門性も確認しよう。 - 「事業所の雰囲気」と「人」を肌で感じる【最重要】
これがすべてのチェックリストの中で最も重要だ。ウェブサイトやパンフレットは「理想の姿」に過ぎない。必ず複数の事業所を見学・体験し、スタッフと話しやすいか、他の利用者はどんな雰囲気か、自分が安心して2年間通い続けられそうか、その場の空気感をあなた自身の肌で感じ、心で判断することが不可欠だ。 - 「通いやすさ」と「設備」をチェックする
自宅からのアクセスは良いか、交通費はどのくらいかかるか。また、PCは一人一台使えるか、静かに集中できる自習スペースやリラックスできる休憩室はあるか、バリアフリーに対応しているかなど、物理的な環境も無理なく通い続けるための大切な要素だ。
【徹底比較】浜松市の主要な就労移行支援事業所(タイプ別)
上記のチェックリストに基づき、浜松市内で特に実績があり、名前の挙がることが多い主要な事業所をタイプ別に紹介する。これはランキングではなく、あなたが自分の希望や特性と照らし合わせ、見学リストを作成するための客観的な情報である。
- 【大手・実績重視型】LITALICOワークス (浜松/新浜松/浜松市役所前)
業界最大手で、累計就職者数18,000人以上という圧倒的な実績が強み。豊富なプログラムと全国4,500社以上の企業ネットワークを持つ。安定した質の高い支援を受けたい方、多くの選択肢から自分に合ったキャリアを見つけたい方におすすめ。 - 【定着支援・実践重視型】ウェルビー (浜松駅前/浜松駅前第2)
就職後6ヶ月定着率91.5%という高い数字が示す通り、「働き続ける」ことへのサポートが手厚い。特に精神・発達障害への専門的プログラムが充実。就職後の生活に不安がある方、実践的な環境で訓練したい方に適している。 - 【発達障害特化型】ディーキャリア (浜松オフィス)
発達障害のある方の支援に特化。特性理解を深める「ライフスキルコース」など、独自の3段階プログラムで、障害特性を強みに変えることを目指す。定着率も91.3%と高い水準。 - 【個別支援・地域密着型】アクセスジョブ (浜松駅前/浜松田町)
浜松市に本社を置く企業が運営。「完全個別支援」を掲げ、約500種類のeラーニングから自分に合った訓練を組み立てられる。就職率・定着率ともに90%以上を公表しており、自分のペースでじっくり学びたい方に最適。 - 【専門スキル特化型】ランプ浜松 (旧 就労移行ITスクール浜松)
プログラミングやWebデザインなど、IT/Webスキル習得に特化。未経験から専門職を目指せるカリキュラムが特徴で、卒業生の約4割がIT関連企業へ就職。在宅ワークなど柔軟な働き方を希望する方にも。
ステップ3:就職後の不安を解消する【長く働き続けるために】
就職はゴールではない。むしろ、そこからが本当のスタートだ。新しい職場での生活が始まると、期待とともに「業務内容が思ったより難しい」「職場の人間関係にどう適応すればいいか」といった新たな課題や悩みが生まれるのは自然なことだ。
そんな時、一人で抱え込まずに頼れるのが「就労定着支援」というサービスである。これは、就労移行支援などを経て就職した方を対象に、就職してから最大3年間、職場での困りごとや生活面の不安について相談に乗り、安定した職業生活を送れるようにサポートする制度だ。
具体的には、以下のようなサポートを受けられる。
- 定期的な面談:月に一度以上のペースで支援員と面談し、仕事や生活の状況を共有。課題を早期に発見し、解決策を一緒に考える。
- 企業との連携:本人だけでは伝えにくい配慮事項(業務量の調整、休憩の取り方など)について、支援員が「橋渡し役」となり、企業側と面談して働きやすい環境を整える手伝いをしてくれる。
- 生活面のサポート:金銭管理や体調管理など、安定して働くための生活基盤に関する相談にも乗ってくれる。
多くの場合、卒業した就労移行支援事業所がこのサービスも提供しており、慣れ親しんだ支援員が引き続き「伴走者」としてサポートしてくれる。就職活動の段階から、定着支援まで見据えて事業所を選ぶことも、長く働き続けるための重要な視点と言えるだろう。
【企業向け】障害者雇用を成功させ、企業価値を高める実践ガイド
法定雇用率の引き上げや労働力人口の減少を背景に、障害者雇用はもはや単なる「コスト」や「義務」ではない。多様な人材を活かし、組織の創造性や生産性を高める「経営戦略」であり、「未来への投資」である。この章では、浜松市内の企業が障害者雇用を成功させ、企業価値を高めるための具体的な手法と、活用できる手厚い支援策を解説する。
ステップ1:最初の壁を乗り越える【課題解決のヒント】
多くの企業が障害者雇用に踏み出せない理由として挙げるのが、「社内に適した業務がない」「受け入れや雇用管理のノウハウがない」という二つの壁だ。しかし、これらは少し視点を変えることで乗り越えられる。
解決策①:業務の切り出し(ジョブカービング)
「障害のある方に任せられる特別な仕事はない」と考えるのではなく、「既存の業務を分解し、特定のタスクを任せる」という発想の転換が重要だ。これをジョブカービング(業務の切り出し)と呼ぶ。例えば、一人の社員が担当している「営業事務」という業務を、以下のように細分化してみる。
- 見積書・請求書の作成(定型フォーマットへの入力)
- 顧客データの入力・更新
- 会議資料の印刷・セッティング
- 郵便物の仕分け・発送
- 備品の発注・管理
このように業務を分解することで、特定の作業に集中して取り組むことが得意な人材が活躍できるタスクが見えてくる。これは、障害のある従業員だけでなく、部署全体の業務効率化にも繋がる可能性がある。
解決策②:合理的配慮の提供(2024年4月から義務化)
合理的配慮とは、障害のある方が他の従業員と平等に能力を発揮できるよう、企業が個々の状況に応じて行う調整や変更のことである。これは2024年4月から全ての事業者で義務化されたが、決して「過度な負担」を求めるものではない。
具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
- 聴覚障害のある方へ:指示を口頭だけでなく、筆談やビジネスチャットツールを併用する。
- 発達障害のある方へ:曖昧な表現を避け、「〇〇を△△時までに3部」のように具体的・視覚的な指示(箇条書きのメモなど)を出す。
- 精神障害のある方へ:体調の波に合わせて、短時間の休憩を取りやすいようにする、人通りの少ない席に配置する。
重要なのは、一方的に配慮を提供するのではなく、本人と話し合い、何が必要かを確認しながら、企業として実施可能な範囲で対応することである。
解決策③:社内理解の促進
障害者雇用が成功するか否かは、現場の理解と協力体制にかかっていると言っても過言ではない。そのためには、まず経営トップが障害者雇用の方針を明確に示し、全社的な取り組みとして推進することが不可欠だ。その上で、管理職や共に働く従業員向けの研修を実施し、障害特性や適切なコミュニケーション方法について学ぶ機会を設けることが極めて有効である。後述する市の支援事業や専門機関は、こうした研修の講師派遣なども行っている。
ステップ2:浜松市・静岡県のサポート体制をフル活用する
浜松市や静岡県では、企業が障害者雇用にスムーズに取り組めるよう、採用から定着まで各段階に応じた多角的な支援策を用意している。これらを活用しない手はない。
- 採用・定着の相談なら:浜松市企業伴走型障害者雇用推進事業
市の専門アドバイザーが企業を直接訪問し、前述の業務の切り出しや受け入れ体制の整備、採用活動の進め方まで、企業の状況に合わせて具体的にサポートしてくれる、まさに「伴走型」の支援事業だ。何から手をつければ良いか分からない企業にとって、最初の相談先として最適である。 - 経済的負担の軽減に:各種助成金制度
障害者を雇用する際には、国の手厚い助成金が多数用意されている。代表的なものに、ハローワーク等の紹介で採用した場合に賃金の一部が助成される「特定求職者雇用開発助成金」や、本格採用を前提に試行的に雇用する「トライアル雇用助成金」がある。これらの制度は、採用にかかる経済的リスクを大幅に軽減する。 - ノウハウの共有と連携:静岡県障害者就労応援団
障害者雇用に積極的な企業を「応援団」として県が登録し、企業間のネットワーク構築を促す制度。登録することで、県の入札で優遇措置を受けられる場合があるほか、先進企業からの見学受け入れやノウハウ共有の機会を得られる。これから雇用を考える企業にとって、実践的な学びの場となる。 - 採用機会の創出:障害者就職面接会
浜松市とハローワークが年に数回、共同で大規模な就職面接会を開催している。令和7年(2025年)2月18日にもアクトシティ浜松での開催が予定されており、意欲の高い多くの求職者と直接出会える貴重な機会である。
ステップ3:浜松の先進企業から学ぶ【成功事例】
浜松市およびその周辺地域には、障害者雇用を単なる社会貢献にとどめず、経営力強化に繋げている先進的な企業が数多く存在する。
事例① 京丸園株式会社:「農福連携」のパイオニア
浜松市を代表する「農福連携」のトップランナーが、水耕栽培で葉ネギなどを生産する京丸園株式会社だ。「障害者に働きやすい環境は、健常者にとっても働きやすい」という信念のもと、「ユニバーサル農業」を実践している。
「障がい者だから利益が出ない、農業だから利益が出ないというのは間違った考え方。我々は利益を確保できていますよ。」
— 京丸園株式会社 代表 鈴木厚志氏
同社では、作業工程を細かく分解し、写真やイラストで手順を示した独自のナビゲーションマップや、身長に合わせて高さを変えられる作業台など、誰もが働きやすい工夫を随所に導入。結果として、現在では25名以上の障害のある従業員が活躍し、雇用率は40%を超える。この取り組みは、障害者雇用が企業の生産性向上と両立し、むしろそれを促進することを力強く証明している。
事例② 製造業での活躍(本田技研工業、浜松ホトニクス等)
「ものづくりのまち」浜松では、やはり製造業における事例が豊富だ。本田技研工業株式会社では、二輪・四輪の開発・製造拠点において、製造ラインの補助業務や開発サポートなど多様な職種で採用実績がある。また、光技術の世界的企業である浜松ホトニクス株式会社は、浜松に本社を構え、技術職や事務職で障害者採用枠を設け、「障害がハンデにならない職場を共に探す」という姿勢を明確に打ち出している。
事例③ 新たな潮流:「環福連携」への挑戦
2025年11月1日、静岡県では「静岡環福連携促進協議会」が設立された。これは、使用済みパソコンのリサイクルといった「環境(Environment)」に関する取り組みと、障害者雇用の創出という「福祉(Welfare)」を結びつける画期的な試みである。この「環福連携」モデルは、企業が環境活動を通じて新たな仕事を生み出し、それを障害のある方の雇用に繋げるという、持続可能な循環型社会の実現を目指すものだ。浜松市に本社を置く株式会社クラ・ゼミ(アクセスジョブの運営母体)が事務局の一員として参画しており、今後の展開が期待される新しい雇用の形である。
【実践編】具体的なアクションプラン早見表
本記事の要点を、求職者・企業それぞれの立場ですぐに行動に移せるよう、具体的なアクションプランとしてまとめた。まずはこの表を参考に、最初の一歩を踏み出してほしい。
まず確認・相談すべき窓口(クイックガイド)
| 対象者 | 窓口名 | 最初にすべきこと |
|---|---|---|
| 求職者の方 | 浜松市障害者就労支援センター「ふらっと」 | 「就労について相談したい」と電話(053-589-3028)で問い合わせ、初回相談を予約する |
| 企業の方 | 浜松市 産業部 産業振興課(企業伴走型障害者雇用推進事業 担当) | Webサイトで事業内容を確認し、担当部署に電話(053-457-2864 ※障害保健福祉課が関連情報を提供)で問い合わせる |
【求職者向け】具体的なアクションプラン
ステップ1:支援機関への相談・登録
| 機関名 | 特徴・提供サービス | 利用開始までの流れ |
|---|---|---|
| ハローワーク浜松(専門援助部門) | 障害者専門の公的職業紹介機関。求人紹介、応募書類添削、面接練習など。 | 1. 総合受付で「障害者雇用の相談」と伝える 2. 求職登録を行い、専門相談員と面談 3. 支援計画を立て、求人を探す |
| 就労移行支援事業所 (例:LITALICOワークス, アクセスジョブ等) |
最長2年間、スキル訓練や職場実習、就活サポートを受けられる「就職のための学校」。 | 1. 複数の事業所に見学・体験を申し込む 2. 利用したい事業所を決め、市区町村の福祉窓口(各区役所社会福祉課)で受給者証を申請 3. 事業所と契約し、個別支援計画に基づき利用開始 |
| 障害者専門の転職エージェント (例:atGP, dodaチャレンジ等) |
非公開求人や大手企業の求人が豊富。キャリア相談や企業との条件交渉代行も。 | 1. Webサイトからサービスに登録 2. キャリアアドバイザーとオンライン面談 3. 自分の希望に合った求人紹介を受ける |
ステップ2:求人情報の収集
| 探し方(サイト・場所) | 特徴 | 具体的な使い方 |
|---|---|---|
| ハローワークインターネットサービス | 全国のハローワーク求人を検索可能。「障害者の方」向け求人に絞り込める。 | 1. 「求人情報検索」から「詳細検索条件」へ 2. 「障害者の方」のチェックボックスをONにして検索 3. 気になる求人の番号を控え、ハローワークで相談 |
| ハローワーク浜松(専門援助部門) | 専門相談員と一緒に、非公開求人を含めて探せる。企業の雰囲気など詳細情報も得やすい。 | 1. 窓口で求職登録 2. 専門相談員に希望条件を伝えながら求人票を検索 3. 応募したい企業が見つかれば紹介状を発行してもらう |
ステップ3:応募準備チェックリスト
- [ ] 履歴書・職務経歴書の作成(支援機関の添削を受ける)
- [ ] 障害者手帳のコピー(必要な場合)
- [ ] 支援機関からの推薦状(可能な場合)
- [ ] 面接で伝えたいこと・質問したいことリスト(希望職種、必要な配慮、自分の強みなど)
【企業向け】具体的なアクションプラン
ステップ1:採用に関する相談窓口
| 相談内容 | 担当機関 | 相談プロセス |
|---|---|---|
| 採用全般・業務の切り出し | 浜松市企業伴走型障害者雇用推進事業 | 1. 産業振興課または障害保健福祉課に電話でアポイント 2. 専門アドバイザーが訪問し、現状をヒアリング 3. 企業に合った支援計画を策定 |
| 受け入れ体制・環境整備 | 静岡障害者職業センター | 1. Webサイト等で連絡し、相談予約 2. 専門のカウンセラーが具体的な助言や、従業員向け研修の相談に対応 |
ステップ2:活用できる助成金・制度
| 制度・助成金名 | 概要・目的 | 申請の主な流れ |
|---|---|---|
| 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) | 障害者など就職困難者をハローワーク等の紹介で継続雇用した場合、賃金の一部を一定期間助成。 | 1. ハローワーク等経由で対象労働者を採用 2. 支給対象期間ごとに、労働局へ支給申請書等を提出 |
| 障害者作業施設設置等助成金 | 障害のある方が作業しやすくするための施設・設備の設置・整備費用の一部を助成。 | 1. 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)へ計画書を提出 2. 計画認定後、工事・設置を実施 3. 完了後、実績報告と支給申請を行う |
ステップ3:採用活動の進め方
- 採用要件の定義: 職務内容(例:データ入力、書類整理)、必須スキル(例:基本的なPC操作)、求める人物像、必要な配慮(例:定期的な通院への理解)を明確化する。
- 求人票の作成: 上記ステップ1の機関に相談し、求職者に仕事の魅力や配慮内容が伝わる求人票を作成する。
- 募集チャネルの選定: ハローワーク、支援機関からの紹介、障害者就職面接会などを複合的に活用する。
- 選考プロセスの設計: 面接回数(例:2回)、職場見学や体験実習のタイミングを組み込み、ミスマッチを防ぐ工夫をする。
まとめ:浜松市の支援を追い風に、未来への一歩を
本記事では、浜松市の障害者雇用をめぐる現状、求職者と企業双方への手厚い支援体制、そして具体的なアクションプランを、最新のデータと共にお届けしてきた。
データが示す通り、浜松市を取り巻く障害者雇用の環境は、法定雇用率の引き上げという社会的な要請を背景に、着実に前進している。雇用者数・実雇用率ともに過去最高を更新し続ける一方で、法定率とのギャップという課題も残る。この状況下で、市の「第4次障がい者計画」や2025年から始まる「就労選択支援」は、官民一体でこの動きをさらに加速させようという強い意志の表れに他ならない。

求職者の方へ。 あなたは一人ではない。浜松市には、どこに相談すれば良いか分からないあなたの道案内役となる「ふらっと」から、就職というゴールまで、そしてその先まで伴走してくれる就労移行支援事業所のような専門家まで、あなたの「働きたい」という思いを支えるための社会資源が豊富に存在する。この記事を地図として、まずは専門機関への相談という小さな、しかし最も重要な一歩を踏み出してほしい。
企業の方へ。 障害者雇用は、もはや単なる法律上の義務やコストではない。京丸園の事例が示すように、多様な人材がそれぞれの能力を発揮できるインクルーシブな職場環境は、新たな価値と生産性を生み出す「未来への投資」である。市の伴走型支援や国の助成金といった追い風を最大限に活用し、組織の持続的成長に繋がる一歩を検討してみてはいかがだろうか。
ものづくりの伝統と、新たな挑戦を歓迎する気風が共存するまち、浜松。この恵まれた支援環境を追い風に、一人ひとりが、そして一社一社が、自分らしい未来を築いていくことを心から応援している。


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