「なぜかうまくいかない」その背景にあるもの
「仕事でケアレスミスが絶えない」「人付き合いが苦手で、いつも孤立してしまう」「計画を立てても、その通りに進められない」——。そんな「生きづらさ」を抱えながら、日々を過ごしていませんか?もしかしたら、その原因はあなたの努力不足ではなく、生まれ持った脳機能の「特性」にあるのかもしれません。
近年、大人になってから自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害と診断されるケースが増えています。これは、発達障害という概念が社会に浸透し、「自分の困りごとの正体を知りたい」と考える人が増えたことの表れです。
この記事は、静岡県浜松市およびその周辺にお住まいで、ご自身の特性に悩み、就労移行支援などのサポートを検討している方々に向けて作成しました。診断を受けることの本当の意味、浜松市で利用できる具体的な相談窓口や医療機関、そして診断後の生活をより豊かにするための支援サービスやライフハックまで、一歩踏み出すための情報を網羅的に解説します。
診断はレッテル貼りではありません。自分自身の「取扱説明書」を手に入れ、より自分らしく、そして楽に生きていくための、最初の、そして最も重要なステップなのです。
ステップ1:大人の発達障害を正しく知る
発達障害は「特性」であり、病気ではない
まず最も重要なことは、発達障害は生まれ持った脳の機能的な「特性」であり、風邪のように「治す」ものではないという点です。ASDの人は対人関係やコミュニケーションに独特のスタイルを持ち、強いこだわりを持つ傾向があります。ADHDの人は不注意、多動性、衝動性といった特性が見られます。これらはあくまで個性の延長線上にあり、優劣ではありません。
また、診断基準を完全には満たさないものの、発達障害の傾向がある「グレーゾーン」の人も多く存在します。公的な支援を受けにくい一方で、日常生活や仕事で困難を感じているケースも少なくありません。大切なのは、診断名そのものよりも、自分の特性(得意なこと・苦手なこと)を客観的に理解することです。
診断はゴールではなく、自分を理解する「スタートライン」
診断を受けることに対して、「障害者というレッテルを貼られるようで怖い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、診断がもたらすメリットは計り知れません。
- 自己理解の深化:長年の悩みの原因が特性にあるとわかることで、自分を責める気持ちが和らぎ、自己肯定感を取り戻すきっかけになります。
- 適切な対策の発見:自分の「苦手」が明確になることで、環境を調整したり、ツールを活用したりと、具体的な対策を立てやすくなります。
- 公的支援へのアクセス:診断を受けることで、後述する就労移行支援や障害者雇用枠、障害者手帳の取得など、様々な福祉サービスを利用できる可能性が広がります。
昭和大学発達障害医療研究所の太田晴久先生も、「診断は将来の選択肢を増やすための方法のひとつ」と述べ、気軽に受診することを勧めています。診断は、自分らしい生き方を見つけるための羅針盤を手に入れることなのです。
ステップ2:浜松市で診断を受けるには?
「もしかして自分も…」と思ったら、次は専門機関に相談し、必要であれば診断を受けるステップに進みます。ここでは浜松市での具体的な動き方を見ていきましょう。
どこで相談・受診できる?浜松市の医療機関と相談窓口
大人の発達障害の診断は、主に精神科や心療内科で行われます。しかし、すべての医療機関が対応しているわけではないため、事前の確認が不可欠です。
浜松市で診断可能な医療機関を探すには、まず公的な相談窓口に問い合わせるのが最も確実です。地域の医療機関と連携しているため、信頼できる情報を提供してくれます。
- 浜松市発達相談支援センター「ルピロ」
- 発達障害に関する専門的な相談窓口です。ご本人、ご家族、関係機関からの相談に応じ、適切な専門機関の紹介も行っています。
- 電話番号: 053-459-2721
- 受付時間: 月~土曜日 8:30~17:00(祝日、年末年始を除く)
- 浜松市公式サイト「ルピロ」
- 各区の健康づくりセンター・保健所
- より身近な相談窓口として、保健師などが相談に応じてくれます。どこに相談していいかわからない場合の最初のステップとしても適しています。
- 中央健康づくりセンター: 053-413-5577
- 浜名健康づくりセンター: 053-585-1120
- 天竜健康づくりセンター: 053-922-0075 など
- 浜松市公式サイト「健康相談窓口」
- 静岡県発達障害者支援センター
- 静岡県が設置する専門機関で、医療機関のリスト提供なども行っています。西部圏域(浜松市、湖西市)の情報もこちらで得られます。
- 静岡県公式サイト
これらの窓口に相談し、紹介された医療機関のウェブサイトで「大人の発達障害の診療・検査を行っているか」「予約方法」などを確認してから連絡を取りましょう。浜松医科大学医学部附属病院や浜松市発達医療総合福祉センター(友愛のさと診療所)などが選択肢として挙げられることがあります。
診断までの流れと期間、費用について
発達障害の診断は、一度の診察で完了するものではありません。複数のステップを経て、総合的に判断されます。
- 期間:初診から最終的な診断が下されるまで、検査の予約状況などにもよりますが、数週間から数ヶ月かかるのが一般的です。
- 費用:診察や一部の検査は健康保険が適用されます。保険適用の場合、診察は1回あたり2,000〜3,000円程度が目安です。ただし、WAIS-IVなどの詳細な心理検査や診断書の作成には、保険適用外で別途費用(数千円〜数万円)がかかる場合があります。費用については事前に医療機関に確認しましょう。
受診前に準備しておくと良いもの
正確な診断のためには、医師にこれまでの状況を正確に伝えることが重要です。診察は時間が限られているため、事前に情報を整理しておくとスムーズです。
- 困りごとのメモ:仕事、日常生活、人間関係で「いつから、どんなことに、どのくらいの頻度で」困っているかを具体的に書き出しておく。
- 生育歴がわかるもの:母子健康手帳、幼稚園や小学校の通知表(先生からの所見欄など)。幼少期の様子は重要な判断材料になります。
- 家族からの情報:可能であれば、子どもの頃のあなたの様子を家族にヒアリングし、メモしておく。
これらの情報は、あなたの特性がいつから、どのように現れていたかを客観的に示すための貴重な資料となります。
ステップ3:診断後の世界が変わる。浜松市で利用できる支援サービス
診断は、あなたを支える様々なサポートへの扉を開く鍵です。特に就労に関する悩みを持つ方にとって、浜松市には心強い支援体制が整っています。
まずは相談から。あなたの伴走者となる支援機関
一人で悩みを抱え込む必要はありません。診断の有無にかかわらず、まずは専門の相談機関にアクセスしてみましょう。
- 発達障害者支援センター:前述の「ルピロ」などが該当します。保健、医療、福祉、教育、労働など様々な分野の専門機関と連携し、生活全般の相談に応じてくれます。
- 障害者就業・生活支援センター:就職に関する相談から、就職後の職場定着、生活面での困りごとまで、一体的な支援を提供します。浜松市内にも設置されています。
- ハローワーク(公共職業安定所):発達障害のある方向けの専門窓口や「精神・発達障害者雇用サポーター」が配置されており、特性に配慮した職業相談や紹介、就職後のフォローアップを行っています。
「働く」を支える就労移行支援という選択肢
「自分に合う仕事がわからない」「職場でうまくコミュニケーションがとれない」といった悩みを抱える方にとって、就労移行支援は非常に有効なサービスです。
就労移行支援事業所では、障害のある方が一般企業へ就職するために必要な知識やスキルを身につけるためのトレーニングを行います。診断書や障害者手帳がなくても、医師の意見書などがあれば利用できる場合があります。
就労移行支援で得られることの例:
・自己分析を通じた得意・不得意の理解
・ビジネスマナーやコミュニケーションスキルの訓練
・PCスキルなどの職業訓練
・履歴書作成や面接練習などの就職活動サポート
・職場実習による適性の確認
・就職後の定着支援(職場と本人の橋渡し)
LITALICOワークスなどの事業所では、利用者一人ひとりの特性に合わせた個別支援計画を作成し、「自分らしく働ける」職場探しをサポートします。多くの利用者が、支援を通じて自信を取り戻し、安定した就労を実現しています。
浜松市周辺にも複数の就労移行支援事業所があります。まずは見学や相談に行き、事業所の雰囲気や支援内容が自分に合うか確かめてみることをお勧めします。
生活を安定させる公的制度(障害者手帳・障害年金)
診断を受けると、必要に応じて以下の公的制度を利用できる可能性があります。これらは生活や就労の安定に大きく寄与します。
障害者手帳
発達障害の場合、精神障害者保健福祉手帳の対象となることがあります。手帳を取得する最大のメリットは、企業の障害者雇用枠に応募できることです。障害への配慮や理解が得られやすい環境で働くことが可能になります。その他にも、税金の優遇措置や公共料金の割引など、様々なメリットがあります。
申請には初診日から6ヶ月以上経過した時点での診断書が必要です。手続きは市区町村の障害福祉窓口で行います。
障害年金
障害年金は、障害によって日常生活や就労に著しい制限がある場合に支給される公的な年金です。発達障害も対象となり、障害基礎年金または障害厚生年金を受け取れる可能性があります。障害者手帳とは別の制度であり、申請先は年金事務所です。初診日の証明や保険料の納付要件など、条件が複雑なため、申請を検討する場合は社会保険労務士などの専門家に相談するのも一つの方法です。
ステップ4:明日からできる!特性と上手に付き合うためのライフハック
診断によって自分の特性がわかったら、次は具体的な対策で日々の困りごとを軽減していきましょう。ここでは、すぐに試せるグッズやアプリを紹介します。
感覚過敏を和らげる便利グッズ
特定の音や光、匂い、肌触りなどに過敏に反応してしまう「感覚過敏」は、多くの当事者が抱える悩みです。我慢するのではなく、ツールを使って刺激をコントロールしましょう。
- 聴覚過敏に:
- イヤーマフ、ノイズキャンセリングイヤホン:工事の音や人混みのざわめきなど、不快な音を物理的に遮断・軽減します。音楽を聴かなくても、装着するだけで安心感が得られます。
- Loopイヤープラグ:会話は聞こえるのに、不要な環境音だけを低減してくれると人気の耳栓です。
- 視覚過敏に:
- 偏光サングラス:日光の眩しさだけでなく、地面やガラスの照り返しといった反射光をカットし、目の疲れを軽減します。ただし、スマホなどの液晶画面が見えにくくなることがあるので注意が必要です。
- 色付きメガネ(遮光眼鏡):特定の色の光をカットすることで、眩しさを和らげます。自分に合う色を見つけることが重要です。
- 触覚過敏に:
- シームレス(縫い目のない)衣類:服のタグや縫い目が肌に当たる不快感をなくします。肌着から試してみるのがおすすめです。
- 加重ブランケット(ウェイトブランケット):適度な重さが体に加わることで、安心感(深部感覚圧)をもたらし、リラックス効果や寝つきの改善が期待できます。
これらのグッズは、Amazonや楽天などのオンラインストアで「感覚過敏 グッズ」と検索すると多数見つかります。感覚過敏研究所のオンラインストアなども参考になります。
タスク管理・時間管理を助ける神アプリ
ADHDの特性である不注意や計画性の困難(実行機能不全)には、スマートフォンのアプリが強力な味方になります。頭の中だけで管理しようとせず、外部ツールに頼りましょう。
Todoist:
シンプルながら強力なToDoリストアプリ。「タスクを思いついたらすぐ登録」という習慣がつきやすく、先延ばしを防ぎます。優先度付けや繰り返し設定も簡単で、ADHD当事者からも「頭の中がクリアになる」と高評価です。
Trello:
「ToDo」「進行中」「完了」といったリストにカードを動かしていくカンバン方式のタスク管理ツール。進捗が視覚的に一目でわかるため、注意が散漫になりがちな人でも状況を把握しやすいのが特徴です。就職活動の企業管理などにも応用できます。
Tiimo:
神経多様な人々のために開発された、視覚的なスケジュール管理アプリ。アイコンと色で1日の予定をタイムライン表示し、「時間の見える化」をサポートします。特に時間の感覚が掴みにくい(時間盲)人に有効で、2025年にはAppleの「iPhone App of the Year」を受賞するなど、世界的に評価されています。
Morgen:
複数のカレンダーやタスク管理ツール(Todoist, Notionなど)を一つに統合できるアプリ。AIプランナーが空き時間を見つけてタスクを自動でスケジューリング提案してくれるため、計画を立てる際の意思決定疲れを軽減します。色分け機能も直感的で、ADHDを持つ専門職から支持されています。
ステップ5:理解を深めるための一冊。おすすめ書籍ガイド
自分の特性や、これからの生き方について深く知りたいとき、書籍は素晴らしい道しるべになります。ここでは、Amazonで購入できるおすすめの書籍をテーマ別に紹介します。
【新刊・話題書】最新の知見と当事者の声に触れる
発達障害に関する研究や理解は日々進んでいます。最新の書籍からは、当事者視点に立ったリアルな情報が得られます。
- 『Unmasking for Life: The Autistic Person’s Guide to Connecting, Loving, and Living Authentically』(Devon Price, 2025/3/25発売)
- ベストセラー『Unmasking Autism』の著者による待望の続編。社会に適応するために自分を偽る「マスキング」をやめ、自分らしく生きるための具体的な方法を、仕事、恋愛、人間関係など多岐にわたるテーマで解説。当事者からの評価も非常に高い一冊です。
- 『Embracing Late Adult Autism: A Self-Help Guide for Adults Discovering Their Neurodivergent Mind』(Susanna Kingston, 2025/2/19発売)
- 大人になってから診断を受けた人向けに書かれたセルフヘルプガイド。自己発見から感覚ニーズの管理、マスキングからの解放まで、当事者の視点から実践的な戦略を提供します。
【ライフハック本】具体的な困りごとを解決する
日々の「できない」を「できる」に変える具体的なアイデアが満載のシリーズです。
- 翔泳社「ちょっとしたことでうまくいく」シリーズ
- 『発達障害の人が上手に暮らすための本』『〜上手に働くための本』など、生活、仕事、お金、人間関係といったテーマ別に、具体的なライフハックを多数紹介。スマホアプリや100円ショップのグッズを活用したアイデアが多く、すぐに実践できるのが魅力です。2025年4月には、これまでのシリーズを統合した『発達障害の人のための完全ガイド』も発売されています。
- 『最新版 大人の発達障害[ASD・ADHD]シーン別解決ブック』 (司馬理英子)
- 職場の人間関係や仕事の進め方など、よくある悩みをシーン別に解説。トラブルを防ぐための具体的なコツが満載で、当事者だけでなく家族や同僚にも役立つ一冊として人気です。
【グレーゾーン向け】診断がつかなくても生きづらいあなたへ
診断基準は満たさないけれど、確かに存在する「生きづらさ」。そんなグレーゾーンに焦点を当てた本も増えています。
- 『マンガでわかる発達障害グレーゾーン』 (岡田尊司 監修, 2024/3/29発売)
- こだわり症、疑似ADHDなど9つのタイプ別に、本人が直面する困難をマンガで具体的に解説。曖昧な指示がわからない、コミュニケーションがずれるといった悩みに、具体的な対策を提示します。
- 『発達障害グレーゾーンのコミュ力を伸ばす本』 (高山恵子 監修, 2025/6/26発売)
- 「会話が続かない」「余計な一言を言ってしまう」といったコミュニケーションの悩みに特化。誤解されない自己説明や助けを求めるスキルなど、実践的なテクニックを豊富な具体例と共に紹介しています。
まとめ:一歩踏み出す勇気が、未来を変える
大人の発達障害と向き合う旅は、時に不安で、孤独を感じるかもしれません。しかし、診断を受けることは、決して終わりではなく、新しい自分を発見し、より良い人生を築くための始まりです。
浜松市には、あなたを理解し、支えてくれる専門家や支援機関、そして同じ悩みを持つ仲間がいます。この記事で紹介した情報が、あなたの「生きづらさ」の正体を解き明かし、自分らしい働き方や生き方を見つけるための一助となれば幸いです。
まずは、小さな一歩から。浜松市発達相談支援センター「ルピロ」や、お近くの健康づくりセンターに電話をしてみることから始めてみませんか。その一本の電話が、あなたの未来を大きく変えるかもしれません。


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